堤未果著「ルポ貧困大国アメリカ2」 第一章 公教育が借金地獄に変わる

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

今日は、第一章「公教育が借金地獄に変わる」について。

  1. 要約

2009年11月23日、カリフォルニア州立大学のキャンパスで、教員と学生による抗議行動が起こった。州政府による教育予算削減、教員の解雇と賃金カット、学費の値上げに対しての抗議である。

1990年代以降、アメリカの大学は毎年学費値上げを続け、公立大学の学費は1995年からの10年間で59%上昇している。国からの公的予算削減のためますます大学の経営は悪化、全国共通の評価基準により教育の質よりも成果についての評価がより重視されるようになったため大学間競争が激化。結果、富裕層の人間だけが質の高い教育を受けられ、上位にいる大学だけに資金が集中し、その資金は短期間で利益を出すプロジェクトや一握りの学生確保に優先的に回される。

一方、毎年高騰する授業料を払うため、学生は学資ローンに頼らざるを得ない。全米の大学生の3分の2が借り入れているローン総額は900億ドル(9兆円)。学資ローン市場を支配しているのは、2005年、フォーチューン誌の選ぶ全米トップ企業ランキングの第2位に躍り出たサリーメイだ。もともとは100%財務省の管轄であったサリーメイだが、現在は完全民営化され、ローンだけでなく保証会社や債権回収機構など学資ローン関連事業をすべて買収し傘下に収めた。「極めて政治的に洗練された戦略で、学生と納税者をターゲットに非常に有益なビジネスを開拓したサクセスストーリー」として金融界の羨望と賞賛を一気に集めたが、実情は、一生払い続けても返済不可能な多額の借金を学生たちに負わせている。

学資ローンの問題点は、学資ローンに対しては消費者保護法が存在しないこと、借り手が自己破産した場合の借金残高免責も適用されないことだ。また、学資ローン業界の取立手法が極めて悪質。例えば、
・払わなければ刑務所行きになるといって脅す。
・借り手が自然災害などで家を失ったら直ちに債務不履行にし、残高に追加延滞金を加算。税還付金や給与の差し押さえを実行。
・借り手から問い合わせの電話があったら、たらいまわしにする。
・借り手だけでなく家族や同僚、近隣住民にも嫌がらせの電話をかける。

低迷する公教育に代わって浮上してきたのが教育ビジネスだ。全米に800校ある営利大学は株式会社が経営しているか、学校そのものが営利機関となっている。

国が教育予算を削減し、大学が授業料を値上げした結果、学生はそれを支払うためにローンを組まざるを得ない。また、公教育の質が低下した埋め合わせをするかのように、営利目的の教育ビジネスが台頭してきた。しかし、学歴がないとワーキングプアになるという不安を抱える学生は、たとえ借金をしてでも将来のために投資をしたいと思ってしまう。そこにつけこみ、ローン会社はますますもうかるという仕組みになっている。

 2考察
堤未果さんは、取材を通して人々の声をたくさん集めていらっしゃって、それがものすごくインパクトがあるので、ぜひ一読をおすすめします。第一章で圧巻なのは、ローン業界の取立手法が羅列してある1ページです。サラ金の取立でこういうのがあるっていう話は聞いたことがありますが、今は過払い金返還とかもあるのでここまでやらないでしょう。

アメリカのすごいところは、何もかもシステムにして一斉射撃みたいに一人残らず全員撃ち殺してしまうような徹底した手法をとるところです。学資ローンは民間の会社がやってるわけですが、それらは政府の規制緩和あってこそであり、ルールを決める人間が市場原理に乗っ取ってやるゲームでは決して損をしない仕組みになっています。いわば、国家が学生を人質にとって、マネーというたった一つのものに価値を一元化させ、一大国家プロジェクトとして教育をビジネスに転換させる実験をやったようなものでしょう。

でも、そうやってもうけたお金はどこへいくのでしょうか。
国の将来は子どもあってこそなのに、その子どもが担保物件でしかないなら、お金に意味はない。

学生の立場になって考えてみると、学生たちは脅されてお金を借りているわけではない。教育を受ければ将来が開けると思って自己責任で自分に投資しているわけです。でも、時代の流れで、学位をとったからといってみんなが専門職につけるわけではない。おそらく、労働市場自体に若者をたくさん吸収するだけの余裕がもうないのでしょう。

今も、アメリカは日本人にとって人気ナンバーワンの留学先ですが、大学の台所事情が苦しいことを考えると、日本人留学生は貴重な収入源だといえます。日本人は高額な授業料でもあっさり一年分くらい前払いしてしまうのですが、ボラれているといってもいい。学資ローンのわなにはまってしまう学生のことを「ナイーブな学生たち」と堤未果さんは述べていますが、日本人学生はさらにナイーブかもしれない。単に契約内容を確認するだけでは済まないような、もっと大きな時代のうねりのようなものに敏感になっていかないとぱっくりと飲み込まれていって、飲み込まれたことにすら気づかないのかも。

日本の学力低下とか学級崩壊とかとはまた違ったアメリカの教育崩壊のルポに、頭がくらくらしました。明日は第2章 年金崩壊についてまとめたいと思います。

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