今週のお題「春が来たら」

先生!
今日、合格通知が届きました!
やったー!
これで、僕も春が来たら医学部の学生です。

母はまっさきにおばあちゃんに電話しました。
電話しながら、母も、おばあちゃんもわあわあ泣いていました。

父は、いつも冷静なくせに、今日ばっかりは早く帰ってきて、早速お酒を飲み、真っ赤な顔で歌を歌っていました。

近所の人もみんなお祝いを言ってくれました。

すっごくうれしいです。
合格するって、周りの人をみんなハッピーにしてしまうんですね。
知らなかった。
先生が、
「受験は合格しないと終わらないのよ」
って言っていた意味が、今日わかりました。

僕が初めて先生にお会いしたのは3年前でした。
僕は、通信制の高校を卒業して一年間自宅で勉強して、どうしても英語がわからなくて行き詰まってしまって、先生のところに勉強方法の相談に行きました。

実は、先生の所に行くまでに、予備校も行ったし、たくさん医学部合格生を出している有名な進学塾にも行ったのです。でも、どこも、中卒で農業をやりながら通信制の高校を4年かかって卒業して、模擬試験なんて受けたこともない僕を引き受けてくれませんでした。

先生のことは知り合いの人から聞きました。
「あの先生のところは結構変わり者の生徒が多いって聞いたから、キミでも大丈夫かもしれないよ」
って言われて、どんな変わった先生かと思ったら、見た目は普通だけど、超ポジティブな先生だった。

「英語は、中1でも高3でもやることはいっしょよ。私がどんなことでもわかりやすく説明してあげるから、ちゃんと覚えるものは覚えるっていう約束が守れるんだったら、一年で得意になるわよ。」
って言われて、僕でもできるかも、って思った。

あの頃は、まだ親も説得できていなくて、中学の時、全然勉強できなかった僕が医学部に行きたいって言っても、親は、
「現実を見なさい」
って僕を説得することしか考えてなかったし。
だから、僕、翌日親を連れてもう一度先生の所に行ったんです。

先生は、前日に僕に話した時よりさらにポジティブに、
「英語に関して言えば、今からでも全然大丈夫です。勉強に対する姿勢がとても素直な方だから、きっとうまく行くと思いますよ。期限を切って、勉強させてあげたらいかがですか。」
と言ってくれました。

その時も、父親はまだ半信半疑だったと思います。
やりかけて、途中でだめってわかったら、僕がさらに自信喪失してやる気を失うんじゃないかって心配していたと思います。

でも、
「とりあえず一年間やってみて、それでセンター試験で結果が出なかったらその時は進路を再考する」
という条件で許してくれました。

結局1年目はセンター試験でそこそこの点はとれたけど、医学部受験には足りず。
2年目は結構とれたけど、やっぱり医学部には足りず、結局薬科大学を受けることになりました。
薬科大学には合格して、一度はそこで受験を終わって薬科大学に入学したんだけれども、ゴールデンウイークあたりから、
「いや、やっぱり僕のなりたいのは医者だ」
って思い出して。

で、また先生に相談に行ったら、
「薬科大学はやめちゃだめ。ここでやめたら、また滑り止めから受けなければならなくなる。だから薬科大学の授業はちゃんと受けて、テストも受けて、それで空いた時間で受験勉強しなさい。そして、今度こそ、第一志望の大学一本でがんばれば、きっと結果が違ってくるよ」
と言われて、親を説得するためにも、大学の勉強はちゃんとやろうと思って、一年間、大学の勉強と受験勉強の両立をしました。

今年はセンターで過去最高の得点をとりました。
二次試験も手応えあった。
難関は面接でした。
僕は、通信制の高校卒業してて、しかも3年浪人してるから、年もくってるし、とにかく経歴が大学の先生には理解できないみたいで、僕だけ特別扱いで、1時間にわたる面接を受けました。

でも、前日に先生と練習したとおり、どうして医者になりたいと思ったか、医者になるためにどういうふうにがんばって勉強したか、医者になれたら、どうやって地域医療に貢献したいと思っているのか、っていうのを、自分の言葉で一生懸命話したら、だんだん大学の先生達も温かく聞いてくれるようになって、面接が終わったらものすごく達成感がありました。

父も母も、人間はまず働くべきだという方針で僕を中卒で働かせたわけですが、それが必ずしも世間に理解されるとは思っていなかったので、最後まで心配していたみたいです。

でも、今日、合格通知が来て、そういう心配が全部なくなりました。

先生、本当にありがとうございました。
あの時、父を説得してくださらなかったら、父は僕が医学部めざして勉強することを許してくれなかったと思います。

これから6年かけて勉強して、研修が終わるころには僕はもう30歳を超えてしまいます。
でも今までお世話になった人たちに恩返しができるように、がんばります。

春が来たら、こちらの名産をおみやげに持ってごあいさつにうかがいたいと母も言ってます。
本当にありがとうございました。
とりあえず、お礼まで。

平成×2年3月9日
春が来たら○○大学医学部新一年生の 山田太郎より