伊関友伸著「地域医療 再生への処方箋」 第4章 夕張希望の杜の地域医療再生 (1)

地域医療 ~再生への処方箋~

地域医療 ~再生への処方箋~

いよいよ第4章 夕張希望の杜の地域医療再生です。
この章については、以前「村上スキーム」を読んだこともあり、最も興味をひかれる章でありますので、特に詳細にみてみたいと思います。

「村上スキーム」についてはこちら。
村上智彦著「村上スキーム」 - Victoriaの日記

  • 要約

1 夕張市立総合病院の経営崩壊
(1)北海道夕張市財政破綻
2006年6月、北海道夕張市が600億円を超える実質債務を抱えて財政破綻し、財政再建団体の申請をすることを明らかにした。当時夕張市は、一時借入金の会計操作を行い、巨額の借り入れを隠しており、これ以上の借り入れは困難な状況に追い込まれた結果としての財政破綻だった。夕張市が経営していた夕張市立総合病院も毎年借金を重ねて運営がなされており、その額は39億円に達していた。夕張市本体が破綻したことにより、病院も倒産状態になった。

経営破綻前の夕張市立総合病院の経営を見てみると、2005年の決算で、医業収支比率82.9%。つまり、100円使って82.9円しか収入がない状態だった。経常損失は3.3億円で、そのほとんどを金融機関からの借り入れでまかなっていた。一時借入金の金額は、2006年で39億円にも達していた。

(2)病院破綻の原因分析
第一に、人口の急激な減少がある。1950年代後半に10万人以上あった人口は、炭坑の閉山により、10分の1になってしまった。しかし、病床の規模はほとんど変わらなかった。

第二に、医師の退職がある。最盛期には10人近くいた医師が次々退職して、5人になっていた。その背景には夕張市の医師の労働環境の悪さがあった。まず給与が低い。さらに医療の必要の薄い社会的入院が非常に多く、このような病院は若い医師にとって魅力がなかった。

第三に、住民の医療に対する姿勢が問題だった。コンビニ的に医療を使う住民が多かった。2006年の夕張市の救急車の人口当たりの出動台数は734件。同年の全国平均は410件であり2倍近くの出動があったことになる。搬送車の4割は軽症者で、一人で年間100回近く救急車を使う住民もいた。また、お金を使い果たし、生活に困ったからといって救急車を使って入院しようという住民もいた。

医療費の未払も多く、2億円を超えていた。さらに診察をせず、薬だけを求める住民も多かった。これは無診察投薬といって法律で禁止されている。

それなのに、かなりの夕張の住民が「あの病院に行くと殺されてしまう」と夕張市立総合病院の悪口を言った。

第四に、看護婦不足が深刻だった。看護婦が減少したため入院患者を受け入れることができず、ベッドコントロールが必要な状況だった。

また、事務職員の多くが市役所本体からのローテーションで、病院経営や医療の知識が不足していた。そもそも市役所の中に、現場を低く見る傾向が強く、「病院なんて金食い虫だからつぶれていまえばよい」などど言う職員もいた。

端的に言って、病院内のマネジメントは崩壊していた。職員に病院の目指すべき方向が示されていなかった。指揮命令系統も確立しておらず、現場の風通しが悪いから若い職員から辞めていく。

一人一人はまじめに仕事をしていたものの、病院の抱える問題を先送りし続けた結果、ある日突然悲劇が起きてしまったのである。
(続きは明日まとめます)