伊関友伸著「地域医療 再生への処方箋」 第3章 沖縄県立6病院の医療再生

地域医療 ~再生への処方箋~

地域医療 ~再生への処方箋~

第3章 沖縄県立6病院の医療再生 〜自治体病院の経営形態のありかたについて考える

  • 要約

沖縄県病院事業の経営危機

沖縄県は、医師の研修で全国的に人気のある県立中部病院や県立南部医療センター・こども医療センターを持つ。

沖縄県の医療をリードしてきた県立病院への県民の信頼は厚い。どの病院も稼働病床率に対する病床利用率が高く、特に救急医療は県立病院が献身的にうけてきた歴史があり、沖縄県内で2回以上の患者の転送はほとんどなく、「受け入れ不能」という状況は起きていない。

しかし、財務状況は、県立南部医療センター・こども医療センターがオープンした2006年度から急激に悪化。208年3月末の一時借入金が約80億円に達し、いつ資金ショートしてもおかしくない状況になっている。

2 沖縄県立病院事業の問題構造
(1)非効率な経営、巨額の病院建築費
経営悪化の原因のひとつに、非効率な経営がある。

職員給与が高く、病院経営について素人の事務職員が担当しているため薬剤や診療材料を割高の価格で購入しているほか、診療報酬の請求もれも少なくない。

さらに、県立南部医療センター・こども医療センターの新築オープンに当たって生じるコストを沖縄県は十分支出しておらず、結果として病院事業会計に負担をかけた。

また、患者が県立病院に対して治療代が未払になっている未収金の額が、2008年1月末現在で15億6700万円に達している。

(2)巨額の一時借入金
沖縄県病院事業の最大の問題点は、80億円に達する一時借入金の存在である。
一時借入金の問題点は以下の3点だ。

  • いつ資金がショートするかわからない。

償還期間を決めて、毎年分割して償還する企業債と違い、一時借入金は毎年全額を借り換え更新しなければならず、交付税措置もない。
企業債が住宅ローンであれば、一時借入金は消費者ローンに近い性格を持つ。
一時借入金は、いつ金融機関から借り換え、追加融資の拒絶があるかわからない借金であり、金融機関の拒絶があった時点で、病院会計は資金ショートすることになる。

地方公営企業法29条2項は「一時借入金は当該年度内に償還しなければならない」とし、3項で「借り換えた借入金は、一年以内に償還しなければならない」と規定する。何年も連続した借り換えは法律の規定に抵触する可能性が高い。

  • 医療の高度・専門化に対応できず、病院が劣化していく。

病院の現金がなく、一時借入金の返済を迫られるということは、必要な投資ができないということにつながる。急性期病院としての魅力が薄れ、優秀なスタッフは病院を去っていく。

(3)お役所病院体質
沖縄県病院事業は2006年4月に「地方公営企業法の全部適用」を行っている。しかし、予算や人事の権限は沖縄県庁の人事課や財政課が握り、十分な権限委譲がされなかった。

病院事業局長は副知事と同格ではなく、一般の部長の待遇に置いている。行政において序列はとても重視される。一般の部長職と同格では、予算や人事の権限を握る総務部長の格下に位置するため、財政課や人事課などの管理セクションに権限を握られていた。そのため、一時借入金や一般会計からの繰入金を縮減することだけが病院の目標とされ、県立病院が将来どのような病院になるかの展望や戦略は示されなかった。

  • 考察

「企業債は住宅ローン、一時借入金は消費者ローン」という言葉が強烈に印象に残りました。

先日、地元の自治体病院の会計を分析したところ、経営状態は悪くないものの、財務状態がかなり悪いことがわかりました。特に、手持ち現金が少なく、一時借入金に毎年頼っているのが気になりました。

資金ショートしてからでは遅い。今のうちに、自治体病院の将来像を描き、ターゲットを絞った経営に梶を切らないと、手遅れになると思いました。