浅田次郎 初等ヤクザの犯罪学教室(4)

こんにちは。Victoriaです。

さて、

初等ヤクザの犯罪学教室 (幻冬舎アウトロー文庫)

初等ヤクザの犯罪学教室 (幻冬舎アウトロー文庫)

4回目の今日は「食う・寝る・遊ぶための最善の方法」です。

浅田次郎直伝 「食う・寝る・遊ぶ」ための最善の方法とは?>


>>理想的な人生とはいったいどういうものかとつらつら考えまするに、それは何もせずに寝て暮らす一生に尽きると言えるのでありましょう。

バブル以来の資産偏在のせいで、この手の人々は結構実在するようであります。

しかし、よく考えてみますと、これは長い歴史の中ではほんの一過性の繁栄でありまして、何十年かたてば彼らの子孫の多くは再びタダの人に成り下がるに決まっているのであります。どこの家にも、おじいさんやひいおじいさんが一時期、たいしたお大尽だったなどという伝説はあるのではありませんか。金は天下の回りもの、とはよくぞ言ったものであります。

しかし、そんなふうに時勢の配剤を期待するのではなくて、世の中には一生寝て暮らす方法がちゃんとあるのです。これは資本主義社会の原理であります。

それは何か。

一つは金を貸して利息で暮らすこと。

もう一つは、金を借りて永久に返さないこと、であります。

人生に哲学的命題をしいてやたら難しく考え、かつ実践しようとするのはもちろん人の勝手でありますが、ソクラテスだって孔子だって内心は「食う・寝る・遊ぶ」こそ理想の人生だと考えていたにちがいない。

「食う・寝る・遊ぶ」。これはまさに王侯の暮らしでありまして、こんなキャッチフレーズが堂々とテレビのCMに登場し、それにつられて車が売れるなどというのは、日本人全員に王侯意識がある証拠であります。

人類の過去の歴史はそのほとんどが王権社会でありまして、いつの時代にもごく限られた一部の階級はこうした生活をしていた。歴史というのはつまるところこの特権階級へのあこがれと執着によって作られてきたといえるのであります。

フランス革命によって近代民主主義がスタートしたときに、新たにこの特権を得たのは資本家階級、つまり「金を貸して利息で食う」階級の人々でありました。したがって今日もなお、資本主義社会においては金を貸す人間とそれを踏み倒す人間だけが、「食う・寝る・遊ぶ」の王侯生活を保障されていることになるのであります。<<

・・・
読みながら、ただもう納得・・・
この後、話は、浅田先生が事務所を開いて、ツキイチ・トイチの忙しい町金融を手がけておられたころのエピソードに移ります。
金主は若い医者と都心の商店主、そして留置場で知り合ったヤクザの親分。


>>高利の街金融を利用する人たちは、たいていは銀行にも親兄弟にも見放された、末期的症状の社長さんなので、金を貸そうが貸すまいが遅かれ早かれ倒産してしまう。

こうした断末魔の生き血を吸うのが高利貸しの腕の見せ所でありまして、生きている間にちゅうちゅうと利息を吸い上げて、土壇場でババを引かないようにするわけであります。情報とカンがすべての商売であります。

ところがこうしたお客さんの中にときたま全然常識にかからない人種が紛れ込んでくる。

まあ、十人か二十人に一人ぐらいの割合でありますが、ツラの皮が鋼鉄でできていて、心臓に毛の生えた、サイボーグのようなヤツであります。

こういう連中に限って、見てくれは世間知らずの工場主。かわいそうな生い立ちなんぞを涙ながらにぺらぺらとしゃべり、借りた金を押しいだいて、
「これで一家五人、路頭に迷わずにすみます」
などと言いながら、それきり音沙汰がない。

たとえば、当時40代半ばの律儀者のY氏。20万円を貸したとたんに翌月の利息がもう入らない。催促をするたびにやれ親が死んだの子どもが車にひかれたの、腹が痛いのケツが痛いのと涙ながらのいいわけをする。

三日だけ待ってくれが五日になり十日になり、とうとう完全に焦げ付いてしまった。

そこで、金利はいらないから、元本だけでも分割で返済してくれと私から頼み込んだのです。

では毎月月末にできただけ送金する、とY氏。

果たしてその月末にY氏から電話がかかってきました。

なんとか1万円工面したのだが、振り込み料がなくて送れないという。

私はもちろん、
「いいよ、それはこっちで持つから9,700円送金しておいて」
と答えました。

さて、その翌月の月末。Y氏からまた電話がかかってきた。
「あの、3,000円しかできなかったんです。振り込み料をのぞいて2,700円送ります」

そしてその翌月。Y氏は信じられないことを言ったのです。
「すいません、今やっと女房の財布から有り金の300円をくすねてきたんです。これから振り込み料を引いて至急で送ります。当分こんなペースになるかもしれませんが、ひとつよろしく」<<

海千山千の浅田先生に勝つ人もいるのね。

Victoriaでした。

この本についての過去記事はこちら。
女が不幸にならないための八ヶ条 - Victoriaの日記
浅田次郎 初等ヤクザの犯罪学教室 - Victoriaの日記
浅田次郎 初等ヤクザの犯罪学教室(3) - Victoriaの日記

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