無名の企画AV女優たちの明るい絶望

こんにちは。Victoriaです。

中村淳彦さんの「売春未満」を読んで(売春未満 - Victoriaの日記)、
名前のない女たち」シリーズをもっと読みたくなったので、読んでみた。

名前のない女たち ベストセレクション (宝島SUGOI文庫)

名前のない女たち ベストセレクション (宝島SUGOI文庫)

これは、「オレンジ通信」というAV専門月刊誌に連載されていたものを書籍化した
名前のない女たち」「名前のない女たち2」「名前のない女たち3」から、
10人の企画AV女優、1人の風俗嬢、1人の無名AV男優の物語をピックアップしたもの。

企画AV女優というのは、アイドル扱いされる単体AV女優と違って、
現場から現場へ日雇いで裸やセックスを切り売りする仕事で、
パッケージに名前が載ることもない。

だけど、風俗と違って、
一部始終が収録された映像が全国にばらまかれ、永久に残るから、
一度やってしまうと、その後の人生の足を引っ張ってしまう。


だって、ある日、家族がDVDを見つけてしまうかもしれないんだよ・・・


中村さんによると、
アダルト不況が深刻になった2006年以降、
AV業界に足を踏み入れる女の子たちのタイプや動機が明らかに変わったらしい。

世の中全体が不況で、AVに居場所を見つけようと流れ込んでくる女の子の数が増えたのに、
AV業界も不況で、
「女としての商品価値」のない女の子は、AV業界にすら、受け皿がなく、
そのころから、不況のあおりを受けてAV業界で干された女の子たちから、
「死にたい」という声を以前にも増して聞くようになったという。


たしかに、ここに登場する女の子は、
例外なく壊れていた。

親の虐待を受けていたり、
ひどい場合は実の父親にレイプされたり、
あるいは、親の借金を1人で背負わされていたり、
みんな、傷つきやすいやさしい女の子だったはずなのに、
どこかであまりにも傷が深すぎて、その痛みに耐えきれず、
感情をなくしてしまったんだと思う。

「私は『もの』だから、何をされても平気」
なんて言っているけど、
来る日も来る日もカメラの前で、
文字通り拷問のような扱いを受け、
体が壊れるまで過酷な陵辱を受けるなんてつらすぎる。

実際、子宮が壊れてしまって、
子どもが産めない身体になってしまった女の子もいる。

最初のうちは、それでも、仕事の充実感があるから楽しんでいる部分もあって、
お金も貯まったりするんだけど、
だんだん精神のバランスを保つことが難しくなり、
お酒やホスト、衝動買いなどに逃げるようになって、
貯金もなくなってしまう。

最後はAVで作った借金を返すために風俗に行ったりして、
あの女の子たちは、今、どこでどうしているんだろうか・・・?


10代から20代の女の子って、
みんな自分に自信がなくて、
男の人に「大丈夫だよ、心配しなくても。悪いようにはしないから」
なんて言われると、根拠もなく信じてしまってついて行っちゃう。

「悪いようにはしないから」なんて嘘っぱちで、
自分は利用されてるだけじゃないかっていうことはすぐにわかるんだけど、
それでも、他の世界を知らないわけだから、
一歩外に踏み出すって言われてもどうすればわからなくて、
ずるずるしてるうちに、
セックスを切り売りしている暗いオーラが体にまとわりついて、
自然とつきあう相手も同じような空気を吸っている人間に限られてしまい、
ますます、幸せから遠のいてしまうんだろうね・・・



みんな、幸せになりたいだけ。
それも、とびっきりの幸せじゃなくて、
ごく普通の幸せがほしいだけ。



それなのに、なぜ、それが手に入らないんだろう。



愛する人をみつけて結婚して子どもを産む



そういう、人並みの幸せを手にいれた女とどこが違うかといえば、

生まれ育った環境、
もっと言えば家庭環境が悲惨で、
心に大きな傷を負って育ったために、
自分だって幸せになりたいって思っていいんだっていう当たり前の欲望を、
封印されたまま思春期を迎えてしまったとういうこと。


その先に幸せの見えないセックスは、
決して快楽をもたらさないから、
機械的にこなすか、ハードプレイで刺激を上げるかのどちらかになってしまう。



人類最古の職業は、
聖職者と教師と娼婦だって言われるくらいだから、
性を売るっていう職業はたぶん社会にとって必要で、
不特定多数の男性を相手にセックスすることでお金を稼ぎ、
結婚して家庭を持つという人生を歩まない女の人は昔からいたはずだけど、


現代のAV女優たちの境遇がことさらに悲惨に感じられるのは、
彼女たちが完全にビジネスの歯車のひとつに組み込まれている点で、

もうイヤだやめたいっていってAV引退しようとした時に、
契約した仕事がまだ残っていたら、
高額の違約金を払わされるっていうのもそうだし、
だいたい彼女たちのギャラが異常に安いのは、
AV女優は下請けの下請けみたいなもので、
いっぱい中抜きされてるわけだから。


人間にはお金と引き替えにしてはいけないものがあって、
たぶんそれは尊厳という言葉で表されるものに近いんだろうけど、
それを奪ってしまう力がAVにはあるんだろうね。


そうやって、不幸な女性を毎年大量生産しながら、
十分ペイするAVって、一体何なんだろう・・・


人間には性欲があるんだよっていう、
ありきたりの話では説明しきれない理由があるのはわかるんだけど、
それをつきつめて知ろうとすると著者の中村淳彦さんがそうだったように、
自分まで精神的に疲弊するようになって、おかしくなっちゃうんだろうね。


でもね、
やっぱり女として産まれたからには、
みんな幸せになりたいはずだし、
女の幸せは絶対に愛抜きでは語れないと思うから、


これからも、
愛に泣き、
愛に苦しみ、
愛のために命を削って懸命に生きている女の物語は、
ずっと読み続けたいし、
読んだら語っていきたいと思います。


<著者の中村淳彦さんへ>
もしも過去に取材した女の子で、
今は幸せに暮らしているらしいよっていう話があれば、
どこかでつぶやいて下さいね。



Victoriaでした。