名医の条件

内田先生の

現代霊性論

現代霊性論

に、歯医者の話が出てくる。

内田先生が歯が悪くなったとき、あちこちの歯医者に行ってもよくならないので、主治医の三宅先生に「いい歯医者さんいませんか?」と聞いたら、「ああ、いるよ」といって紹介してくれたので、そこの歯医者さんに行ったら、「この人は名医だ」ってすぐに思ったという話。

それまで、どんな歯医者へ行ってもまず歯医者は内田先生を叱ったそうだ。「ブラッシングがたりない、食生活が悪い、生活習慣が悪い・・・」。行くたびに叱られるので、ますます歯医者から足が遠のく。

ところが、この名医の先生は、全然叱らない。「あー、大変なことになってますよ。がんばって闘いましょうね」っていうふうにおっしゃる。「歯を悪くする邪悪な霊」みたいなものを想定して、内田先生がその被害者で、二人でその悪と闘うっていう、そういう物語に巻き込んでしまうそうである。

この話を読んで、私は二つの点で思い当たるふしがあった。

まず、ひとつは、確かに歯医者に名医が少ないということ。
子どもの時から歯は弱いので、毎年のように歯医者に通っている。
そして、毎年、違う歯医者に通う。
なぜなら、「また行きたい」と思う歯医者がないからだ。
どちらかというと、「ここにはもう二度と来たくない」という思いを抱くほうが多い。

なぜだろうか、ということを考えていて、内田先生のこのくだりを読んで納得した。

要するに、直そうという気を発してくれる歯医者がめったにいないのである。

初診で行くと、まずはレントゲン撮影。次に歯を一本一本調べてカルテを作る。
私は、どれか一本の歯が悪いということはなく、忙しかったり、ストレスがかかったりすることがあると、歯が痛くなったりしみたりするのである。だから歯医者に行くのは、毎年受験シーズンが終わった時期と決まっている。実は先週も行ってきたところだ。

で、そこからいよいよ、「今後の治療方針のご説明」というのが始まる。

私の希望は、「疲れると、歯がしみたりぐらついたりするので、ふだんからまめにメンテナンスをして少しでも健康な歯を保ちたい」ということである。だから、自分ではなかなかできないていねいなブラッシングとか、消毒とか、そういったことをやってもらいたい、というイメージを持って歯医者に行く。

ところが、私がそういうことを、自分ではわりとていねいに、具体例などもまじえつつ説明しても、期待していたような反応がかえってきた試しがない。

「ブラッシングが足りませんね。ちゃんと歯間ブラシ使ってますか」
(使っててもとれないから来てるんですけど)
「歯並びが悪いですね。直そうと思ったことはないですか」
(これでも矯正はしたのよ。それにアラフォーの私に今さら矯正させるわけ?)
「いくつか抜けてる歯がありますね。そこを埋める手術をしたほうがいいですね」
(だからそれは矯正するときにじゃまだからって抜いたんだってば)
「入れ歯がイヤならインプラントがありますよ」
(だから、骨が弱いからインプラントはムリだって言われて、今ここに来てるってさっきも説明したでしょーが)
・・・・

で、結局、検査代でたんまりお金はとられ、まともなブラッシングすらしてもらえずに、ぐったり疲れて帰ってきた。

ほぼ、どこの歯医者に行っても似たり寄ったり。もっとひどいところでは、口を開けたとたんに「うわー、歯並び汚いな〜。全部抜いて直す方法あるけど、説明聞く?」みたいなことを言われていたく傷ついたこともある。

歯科医の養成方法、どこか間違ってるんじゃないだろうか?

思い当たるふしの2番目は、名医の条件って、名教師の条件といっしょだなあ、ということ。
特に一対一の個別で教える時には、「まず、生徒から苦手意識を取り除いてあげる」というプロセスが欠かせない。

例えば、「中学校に入学したときからずーっと英語は苦手で、ちゃんと勉強しろしろって言われてきたけど全然ダメで、それで今日、ついにお母ちゃんが切れて塾行けって言われてここに来ました。でもボク全然英語とか、やりたくないんです。英語のない世界に行こうと思う・・・」みたいな生徒が来たとき。

「ふうん、何ができないのかな。ちゃんと単語は覚えてる?予習ノートは?ノートもないの?そりゃだめだ。英語はね、暗記科目なんだ。だからちゃんと予習復習していかないと上がらないよ!」

とかって言ってしまうと、そこで、「はい、終了」。生徒は「あー、やっぱり勉強しないとだめなんだ・・・。勉強しなくてもいい方法を習いに来たのに・・・」と思ってしょんぼりするだけ。

「この前のテスト何点だった?え?40点?勉強はしたの?あんまりしてない?へ〜、それで40点か〜。すごいじゃない。で、次のテストで何点くらい取りたい?先生、あと20点、すぐにとれるようになる方法知ってるよ。やってみる?大丈夫、そんな、大変じゃないって。テストの前一週間、毎日通える?じゃあ、大丈夫だ。先生が「ここは必ず出る」っていうところにヤマをはってあげるから、それを一緒に覚えようよ。60点とれたらお母さんも納得するんじゃない?え?ゲーム、没収されちゃったって?それは大変だ。じゃあ、今日家に帰ったら、お母さんに「次のテストで60点とれたらゲーム返して」って交渉しなよ。ゲームのためにもちょっとだけがんばってみよう。」

こういうふうに持って行くと、たいていの生徒は目が輝いてくる。特に男子生徒にはこれがきく。
ポイントは、
「勉強しろ勉強しろってうるさいお母ちゃんに、塾の先生といっしょに闘いを挑む」
という構図に持って行くというところにある。

なんのかんの言って、子どもは母親にがみがみ言われるのが一番いやなのだ。
家の中の雰囲気は暗くなるし、いつも見張られているようで落ち着かない。
勉強するときはする、遊ぶときは遊ぶってメリハリをつけたいじゃないか。
ま、原因を作ったのは本人なんだけどね。
でも、わざわざそれを思い知らせる必要もないでしょう。

だから、成績の悪い生徒がいても、どこが悪いのかって原因分析をするんじゃなくて、ちょっとでも成績上がったら今より暮らしやすくなるっていう具体的なイメージを描いて、それに向かってやろうっていう気持ちを持ってもらうほうが大事。

個別に相手の苦しみとか問題を取り除いていくお手伝いをする仕事の真髄は、共通してるんじゃないか。

さすが、内田先生。歯医者にいくたびにむかついていた私の気持ちをたった一言で楽にしてくれました。要するに、今まで行ってた歯医者が名医じゃなかったってことです。

ちなみに内田先生が今通っている歯医者さんは、予約診療だけで、看板のない歯医者さんなのだそうです。

やっぱりね〜。誰か私に名医を紹介してください。
(歯の治療が必要なのは事実なんです)