受験生に贈る言葉(5) 合格発表

3年前の合格発表の日のことを覚えているかい?

3月だというのに、朝から小雪のちらつく寒い日だった

なぜ、合格発表の日というのは
毎年こんなに寒くなるんだろう
今年も朝から寒風吹きすさぶ中
大勢の受験生が白い息を吐きながら
ケータイを握りしめ
受験番号が張り出された白い掲示板を食い入るように見つめていた

3年前
そこにキミの番号はなかった

そろって発表を見に行った同級生22人のうち
キミをのぞく21人が合格した

みんなが喜びの声を上げ
写メして親にメールを送っている輪から離れ
キミは家まで歩いて帰ったそうだね

電車を乗り継いで一時間の道のりの
どこをどう歩いて帰ったのか

ずっと悔し涙にくれていたキミの目に
周囲の景色などまったく映らなかったにちがいない

県立高校の入試に落ちて
すべり止めの私立に通うことが決まった時
キミはひとつの誓いをたてた

この悔しさは3年後に晴らしてやる
受験の借りは必ず受験で返す

高校に入学して
古文・漢文の授業が始まった時
キミは思ったそうだね

オレは国語に向いてない

高校入試だって
国語で落ちたようなものだったし

それからのキミは
数学の鬼になった

聞くところによると
クラス一数学のできるヤツとつるんで
図書館に通っては
いっしょに問題を解いていたそうじゃないか

高2の時から
東大の赤本がキミの愛読書になった

東大の数学の過去問を
片っ端から解いたそうじゃないか

きれいさっぱり捨ててしまった国語が足をひっぱって
校内順位はパッとしなかったけれど
数学ならオレも捨てたもんじゃないという自信が
キミの力になった

ボロボロになった東大の赤本をカバンにしのばせて受験した私大に
見事合格したキミ

国語は捨てるという言葉通り
本番で国語の答は全部2番にマークしてつっぱったそうだけど
ちゃんと合格したじゃないか

おめでとう
これで一生国語のテストとはおさらばだな

3年かかったけど
キミのレベンジは見事完了だ

これからは借りを返す人生じゃなくて
世の中にどんどん貸しを作る人生を歩んでくれ

人間は
生まれたときは借りばっかりなんだ
親に対する借り
先生に対する借り
世の中に対する借り
国に対する借り

背負いきれないくらいの借りを
ひとつひとつ返していくのが人生なんだ

寿命がつきるまでに
貸し借りをゼロにして
できたら貸しを作るくらいになりたいものだと
日々努力しているけれど

なかなかうまくいかないものだよ
先生は社会人の仲間入りをしてもうかれこれ20年以上がたつというのに
一向に赤字が減らない人生なんだ
いやもうホントお恥ずかしい限りだよ

大学生になったら
キミの言ってた「点数だけで判断されない自分」で勝負だ

これから先の人生に
赤本はない

キミの人生のシナリオは
キミ自身が作るんだ
どうだ
めっちゃ、楽しみだろ?

健闘を祈る

Victoria