原武史著 「鉄学」概論 車窓から眺める日本近現代史

こんにちは。Victoriaです。

さて、先日、朝日新聞紙上でインタビュー記事を読み、原武史先生のファンになったVictoria・・・
東北の鉄道網は新幹線優先ではなくまずローカル線復旧を - Victoriaの日記
早速、読んでみた。

「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

感想 : 原武史先生のご専門が、日本政治思想史だってことが、よくわかった。

「鉄」という文字がタイトルに入っており、サブタイトルには「車窓から眺める」って書いてあるから、鉄道にまつわる軽〜いエッセイかと思って読み始めると、たぶん、やけどする。

「あとがき」で宮部みゆきさんが、
「本書は鉄道に乗りながら読んでもらいたい本です」
って書いてるけど、青春18きっぷかなにかで、のんびりローカル線に乗って車窓から見える景色を楽しんでる時、私鉄が経営の安定化を図るために沿線に住宅地を開発した歴史だとか、そういう団地に入居したサラリーマンの鬱屈した怒りが爆発して国電暴動になった経緯なんかを、読みたいだろうか。

私は、そういう堅苦しい話は、旅先の揺れる車内じゃ読めない。

この本は全部で8章あって、2章から8章は鉄道を切り口とした近代政治史。

第一章だけは、純粋に鉄道が好きで、「鉄道に乗ること」を楽しみ、それを書きつづった三人の巨匠の話で、鉄道ファン的に楽しめるところ。

そこで、第一章だけ、ここでご紹介したいと思う。

<第一章 鉄道紀行文学の巨匠たち>

紹介されている巨匠の一人目は、この方。

第一阿房列車 (新潮文庫)

第一阿房列車 (新潮文庫)

ご存じ、「阿房列車」シリーズ18篇を書いた、鉄道紀行文学創始者
「第一阿房列車」の冒頭文が引用されているが、大変感動的な文なので、ここでもご紹介したい。

>>阿房というのは、人の思わくに調子を合わせてそういうだけの話で、自分でもちろん阿房だなどと考えてはいない。
用事がなければどこへも行ってはいけないというわけはない。
なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う。<<

「用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」
この言葉がすんなり受け入れられるかどうかが、鉄道ファンであるかないかの境目なんじゃないかな。

普通、人は、用事もないのにわざわざ鉄道に乗ったりしない。
車好きの人もそうでしょ?
車を走らせること自体が目的のドライブなんて、車好きの人にしかできないものね。

私も鉄道の旅は好き。
だけど、鉄っちゃんか?って言われると、たぶん、違うと思う。

模型を集めたりなんかしないし、新幹線の車両それぞれについてのデータを暗記してたりしないし、「乗りつぶし」っていうのをやったこともない。

第一、用事もないのに、ただ、ぐるぐると電車に乗るだけの旅っていうのは、したことないと思う。

私の場合は、まず、旅行の計画っていうのがあって、移動の手段として、なるべく車は使わないで電車で行きましょうっていうのが多い。

子どもの頃から、車に乗ると酔うのよ。

自分で運転するようになってから、さすがに、運転しながら酔うっていうのはないんだけど、今でも観光バスに乗ると二回に一回の確率で酔うかな・・・

路線バスだと大丈夫なんだけどね。

観光バスって、途中でドアが開かないでしょ?

車内の空気が適度に入れ替わらない、密閉された感じがダメなのよね。

だから、電車も、なるべくなら、新幹線よりは在来線、特急よりは各停に乗りたい。

各停って、ひとつひとつの駅に順番に止まるから、しょっちゅうドアが開いて、新しい空気が入ってくるし、地元の人が一駅とか二駅で乗り降りするから、乗客の顔ぶれが新鮮なのよ。

逆に、特急だと、長距離乗る団体客が多くて、お弁当食べたり宴会したりして盛り上がるから、一人旅してると、何か居場所がない感じがして落ち着かない。

電車で旅行する時は、少々時間がかかっても各停を選ぶから、必ず始発に乗る。

まだ暗いうちから駅に電気がついて、駅員さんがおそうじしたりなんかしてて、空いた車内には、早朝からお仕事に向かうプロフェッショナルな人か、遠征試合に出かける部活の高校生くらいしか乗ってない始発電車。

肉体的には、座席に座ってるだけだから、運動してるわけではないのに、決して座り心地がいいとは言えない各停に乗ってると、全身動かしてるみたいな感じで、身体がめざめていくっていうのは、なぜなんだろう・・・

それに、決まり切った日常生活をしてるだけでは、決して思いつかない大胆なアイデアが浮かんだり、煮詰まった人間関係の悩みからふっきれたりするのは、電車に揺られてる時が圧倒的に多いんだけど、どうしてかしらね・・・

たぶん、あんまり混んでない電車に乗ってる時って、これをやらなくちゃいけないとか、隣の客がうるさくてイヤだなとかっていう、余計なストレスがないから、ぼーっと窓から外の景色見てるだけで、脳が解放されて、アルファー波かなんかが出るんだと思うのね。

仕事が忙しくて会社に缶詰になってて、ストレスのない状態で電車に乗るっていうことがない状態が一週間も続くと、てきめんに調子が悪くなる。

視野が狭くなって、自分のことしか考えられなくなり、怒りっぽくなったり、根気が続かなくなったり・・・

よし、明日は早速、各停乗って、どっか行こう・・・

巨匠二人目は、この方。

南蛮阿房列車 (光文社文庫)

南蛮阿房列車 (光文社文庫)

三人目は、もちろんこの方。

時刻表2万キロ (角川文庫 (5904))

時刻表2万キロ (角川文庫 (5904))

最長片道切符の旅 (新潮文庫)

最長片道切符の旅 (新潮文庫)

原武史先生は、三人の中で、一番宮脇俊三が好きなんじゃないかしらね・・・

「最長片道切符の旅」取材ノート (新潮文庫)

「最長片道切符の旅」取材ノート (新潮文庫)

この本の注と解説をお書きになってるの、原武史先生だし。

第一章は、
>>内田ひゃっけん、阿川弘之宮脇俊三と受け継がれてきた鉄道紀行文学の系譜は、阿川より年少の宮脇俊三が亡くなったことで存亡の危機に立たされている。はたしてこの先、この系譜に連なる「巨人」は現れるのだろうか。<<
という文章で締めくくられている。

原武史先生こそ、その系譜を受け継ぐ後継者だと思うのは、私だけだろうか・・・

Victoriaでした。