水野和夫・萱野稔人 「超マクロ展望 世界経済の真実」 (4) アメリカがイラクを攻撃した真の理由
こんにちは。Victoriaです。
- 作者: 萱野稔人,水野和夫
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/11/17
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1999年にユーロが発足。
翌年、2000年にイラク大統領フセインが、これからは石油の売上代金をドルではなく、ユーロで受け取る、ということを国連に対して宣言し承認される。
当時イラクは湾岸戦争後の経済制裁を受けていたので、石油の輸出を制限され、売上代金はすべて国連が管理していた。
これはアメリカにとってものすごく嫌な措置だった。
冷戦が終わるまでは、社会主義陣営に対して資本主義体制を守らなければならないという意識から、西側諸国は協調してドル基軸通貨体制を護持してきた。
そこにフセインは挑戦してきたわけだ。
ユーロを発足させたEU諸国にしても、わざわざドルに換金しなくても石油が買えるのは嬉しかったはずである。
しかし、ドル以外の通貨でも石油を買えるようになれば、誰も赤字まみれのドルを受け取ってくれなくなり、ドルが暴落してしまうかもしれない。
だから、どうしてもアメリカはフセインをつぶさなくてはならなかった。
イラク戦争は、イラクにある石油利権を囲い込むためにされたのではなく、ドルを基軸としてまわっている国際石油市場のルールを守るための戦争だったわけである。
2 金融市場の拡大に伴って変わった軍事の性格
イラク戦争が示しているのは、軍事の性格が変わったということだ。
それまでは、ある土地を支配するために軍事力が行使されてきた。
それが今では、世界を覆う経済的なシステムを維持するために軍事力が用いられるようになった。
領土ではなく、抽象的なシステムによって自らの利益を守ることに、軍事力の目的が変わっていったのである。
つまり、経済覇権は、領土の支配を必要としない脱領土的なシステムを通じてなされるわけである。
これが、グローバル化の意味である。
石油についていえば、価格決定がアメリカの先物市場にゆだねられていて、石油をドルでしか売買できないことが、その経済システムの根幹にある。
だからこそ、アメリカは、みずからの石油利権がないところであっても、国際石油市場に影響を与えるような事態が起これば軍事介入していくのである。
国際債券市場で、ユーロ建て、ドル建て、円建て、ポンド建ての債券の発行残高の割合を見ると、ユーロ建てが一番高い。名目GDPの規模でみても、95年にEU加盟国が15カ国になった時点でアメリカを抜いている。
つまり、ユーロが基軸通貨になる条件がだんだんそろってきているわけだ。
そこで、ユーロへの対抗策として、95年にアメリカは「強いドル」政策を打ち出す。
アメリカが、国内にバブルをつくって金融市場を拡大し、金融危機へと至る過程とは、ドル対ユーロの潜在的な戦いの過程であり、イラク戦争はその潜在的な戦いのひとつのすがたなのかもしれない。
今回の金融危機をうけて、EU、中国、ロシアがこぞってドル基軸通貨体制に対して反対意見を出してきている。
アメリカによるグローバルな経済空間の支配も、曲がり角にきているのかもしれない。
・・・
まとめ(5)へつづく・・・
Victoriaでした。