柳澤桂子 いのちと放射能

こんにちは。Victoriaです。

先日、堀文子さんとの共著を読んで、柳澤桂子さんのファンになったVictoria・・・

生きて死ぬ智慧

生きて死ぬ智慧

今日は、これを読みました。

いのちと放射能 (ちくま文庫)

いのちと放射能 (ちくま文庫)

非常にホットなタイトルなので、震災後に出版されたのかと思ったのですが、そうではなく、チェルノブイリ事故の直後に書かれ、「放射能はなぜこわいー生命科学の視点から」というタイトルで出版されたものを、文庫化したものです。

放射能はなぜこわい―生命科学の視点から

放射能はなぜこわい―生命科学の視点から

柳澤桂子さんは、生命科学がご専門。
この本の中でもお書きになっていますが、先天性異常の研究に従事されていた時には、放射性物質を使った実験を行っていたそうです。

たった一滴の放射性物質を扱う実験の過程でも、放射性廃棄物は出ます。

針一本、ティッシュ一枚に至るまで、放射能が付着していると考えられるものについては厳重な管理のもので処理しなければならないのに、原子力発電のように工業レベルで大量に生み出される放射性廃棄物を、一体どのように処理しているのだろうかという疑問がいつも頭を離れなかったそうです。

チェルノブイリ事故の後、柳澤桂子さんは、国家や、会社の幹部、学者がいかに頼りにならないかということを痛感。

大きな組織に組み込まれると、個人の意志とは関係なく、不本意な動きをさせられてしまう。

肩書きは人間を弱くし、不自由にする。

原子力問題でいちばんの悪者は誰なのだろう・・・

ということを考えていって、ふと、いちばん悪かったのは自分ではないかということに気づき、りつ然とされたそうです。

自分は放射線が人体にどのような影響をおよぼすかをよく知っている。

放射能廃棄物の捨て場が問題になっていることも知っている。

それなのに、このような事故を起こしてしまった。

もう遅いのかもしれないけれども、なぜ、放射能はおそろしいかということを伝えなければならない。

そう思ってこの本をお書きになったと「はじめに」で述べておられます。

本書では、放射能がなぜおそろしいかということを、理科の教科書のように、かみくだいて説明がされています。

難しいことを、限られた言葉でシンプルに説明しようという気迫に満ちており、とてもよい教科書であると思いました。

連日、新聞やテレビで耳にする「シーベルト」の意味なども、この本を読むととてもよくわかります。

理系の先生のお書きになった本は、読みにくいことが多いですが、柳澤桂子さんはサイエンスライター歌人でもあるので、ひとつひとつの言葉に魂が宿っていて、心にしみわたるようです。

随所で詩が引用されており、それがこの本を味わい深いものにしているのですが、中でも、
「それはこころの問題です」という章で引用されている、医師であった細川宏氏が亡くなる28日前に書き残したという文章は感動的。

   人の世

1 一日一日をていねいに、心をこめて生きること
2 お互いの人間存在の尊厳をみとめ合って、できればいたわりと愛情をもって生きること
3 それと自然との接触を怠らぬこと


チェルノブイリ事故から19年後の2007年に書かれた「文庫版への長いあとがき」で紹介されていた資料によると、

チェルノブイリ事故当時の事故処理に携わった86万人の作業員のうち、5万5千人が亡くなった。
チェルノブイリ事故で健康を害した人は、ロシアで145万人。
・2006年現在、ロシア、ウクライナベラルーシ健康被害者は700万人。
・事故後に生まれた18歳以下の子どもたちのなかで、体内被曝によって健康を害している人は22万人。

柳澤桂子さんによると、
放射能のほんとうの恐ろしさは、突然変異の蓄積にある。

三陸の海を放射能から守る岩手の会」世話人永田文夫さんの解説では、数十億円の交付金とセットで最終処分場を受け入れる自治体を必死でさがす国の事情や、六ヶ所再処理工場から、海に空に放射能が放出されている現状などが書かれています。

「もしかしたら、もう手遅れなのではないか」と、ページをめくりながら絶望的な気持ちになりますが、 錯綜する情報の海におぼれてしまって針路を見失わないようにするために、ぜひたくさんの人に読んでいただきたいと思いました。

Victoriaでした。