堀江邦夫 原発ジプシー (3)ケガしたものは電力さんにあやまれ!
こんにちは。Victoriaです。
- 作者: 堀江邦夫
- 出版社/メーカー: 現代書館
- 発売日: 2011/05/25
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今回は、第1章 美浜発電所 より、粉塵まみれの”ネッコー”作業 のまとめをお送りします。
<ケガした者は、電力さんにあやまれ!>
原発の定期検査が始まると各地から労働者が集まる。
彼らが「原発ジプシー」と呼ばれるようになったそもそもの理由は、
原発というのは、定期検査ごとに労働者を臨時で雇うものなので、
各地の原発の定期検査を渡り歩く労働者が出現したからである。
さて、めでたく美浜発電所の下請け会社に採用が決定した堀江さんの最初の仕事は、
二次系での”ネッコー”作業だった。
”ネッコー”というのは、熱交換器のことで、
タービン建屋の中にある交換器のピン・ホール検査のこと。
具体的には、熱交換器の中に無数にあいている穴に、エア(空気)を送り出し、
エア漏れがないかどうかをチェックする。
それだけなのだが、作業をする場所が、とても人間の入ることを想定して作ったとは思えない狭さ。
せいぜい直径50センチほどの開口部から、体をよじらせながらなんとか入り込み、
真っ暗の中、100ワットの裸電球1個の明るさだけを頼りに、
細かい作業をしなければならない。
大変なのは、穴にエアを送り込むと、空気といっしょに管内に付着していた金属の粉塵が一気に吹き出すこと。
手ぬぐいで顔を覆っただけの装備でそれを行うので、
灰の中まで真っ黒になってしまう。
事実、堀江さんは、ムリな姿勢で作業をし続けたために、
体中が痛みで起き上がれなくなっただけでなく、
黒いタンが出るようになったという。
近代科学の粋を集めたといわれている原発だが、
ひとつひとつの作業は結局人間の手に頼らざるを得ない。
電力会社の社員が現場の作業にあたることはないから、
すべては下請け労働者がやるのだが、
彼らは、自分たちがなにをやっているのか、
自分たちの作業が全体の中でどのような役割をになっているのかがわからないため、
仕事におもしろみがない。
まさに、「疎外された労働」そのものである。
堀江さんが仕事を始めた時、
ちょうど労働衛生週間だったので、その報告があった。
「これからは、構内でケガをした人は、電力さん(関西電力)にあやまりに行くことになりました」
これには、労働者たちが色めき立った。
「誰だって、ケガしとうてするんじゃないで。それなのに、ケガして苦しむ本人が、
そんな仕事させた電力に頭下げんならんちゅうことは、どういうことですねん」
また、
「本館1階の食堂は電力さんの社員用ですので、私たちが利用できるのは、12時半から30分間と決まっているのに、それが守られていないと電力さんに注意されましたので、十分注意してください」
という連絡もあった。
「なんで、わしらを電力の社員と差別すんのか」
泥まみれ、粉塵まみれ、汗まみれになって働いている下請け労働者たち、
彼らの多くは被ばくもしているから、
明るい照明の下、真っ白のワイシャツ姿で働いている電力会社の社員と並んで食事、
というわけには、いかなかったのだろう。
Victoriaでした。