堀江邦夫 原発ジプシー  (5) 福島第一原子力発電所 全国から狩り集められる労働者たち

こんにちは。Victoriaです。

原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録

原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録

今回は、第2章 福島第一原子力発電所 から、全国から狩り集められる労働者たちのまとめをお送りします。

<全国から福島第一原子力発電所へ集められる労働者たち>


さて、美浜発電所で働いていた堀江さんだが、
美浜三号機の定期検査がほぼ終わり、待機が増えてきたタイミングで、
福島に行かないかという誘いをうけた。
原発の現場をもう少し知りたいと思っていたし、
賃金もかなり高いので、二つ返事で美浜原発を去り、福島へ。

福島では、全国各地から労働者が集まっていた。

東電に出入りする業者の話によると、
関電の原発だと、一次系、二次系と分けられているので、
線量をオーバーした労働者は二次のタービンなどにまわすことができるが、
福島はどこもかしこも管理区域なので、放射線量の限度があり、
頭数をたくさん確保しなければならないため、
地元の者だけでは限界があるから、県外から引っ張ってこなければならない、
ということだった。

福島では、美浜原発で浴びた数倍の放射線を浴びることが多かった。

労働者はみな、放射能に対する不安を感じていた。




「定期検査なんて、人間のやることじゃないよなあ」
「ああ。いくら許容線量内だから安全だって言われても、これだけ毎日浴びていればおかしくなるよ」
「すぐにおかしくならなくたって、子どもへの遺伝も考えられるし」
「ここで働いている者の家族なんか、あと10年後、20年後には、とんでもないことになってるんじゃないか」
「もし、そんな子がうまれたら・・・」
「・・・」



しかし、原発放射能に対する不安を、そのまま正直に口にすることがはばかられる職場環境だった。

例えば、バルブのパッキング取り替え作業中に、
分解中のバルブからものすごい勢いで水が吹き上がったことがある。

放射能で汚染している可能性大の水は、
作業着をまたたく間に浸透し、下着までびしょ濡れにしてしまった。


内部被ばくから肉体を保護してくれるはずの作業着は、防水ではないのである。

床にあふれた水は、タオルにしみこませてバケツに絞り出す。
放射能に汚染された水に直接手を触れることになる。
しかし、他の労働者たちが懸命に作業をしているのに、
自分だけ横で眺めているわけにはいかない。
なるべく水が体につかないよう、おそるおそる作業に参加する。

作業中につけることになっているマスクは、
長時間つけっぱなしだと息苦しいため、
ほとんどの労働者はマスクを外し、首にぶらさげていた。

また、管理区域内ではいつも身につけているポケット線量計は、
わずかな衝撃を与えただけで振り切れてしまうので、
「取り扱いに注意するように」
と言われていた。
本来なら、東電が作業のしやすい服や設備の用意をすべきであろう。



管理区域を出るときに、放射能検査をするためのモニターは、
美浜では全身の汚染状況が一回の測定でわかるものだったのに、
福島では、手と足しか計測することができない。

実は、全身を一度に検査できる装置が一台設置されているのだが、
それは東電の社員が使うために置いてあるとかで、
下請け労働者は使うことができなかった。



堀江さんが、福島一号機に従事していた
ちょうど同じ時期に、燃料棒にひび割れがみつかり、
放射性物質が漏れている疑いがあることがわかった。

福島に限らず、あちこちの原発で、
定期検査のたびに故障が発見されていた。

とにかく、原発に事故・故障はつきものだった。

そして、ついに、堀江さんは大けがを負うことになる。



Victoriaでした。