自治体事業仕分けを仕分けする

こんにちは。Victoriaです。

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自治体研究社発行の「住民と自治 2011.5」に、
自治体の事業仕分けを仕分けする」
という特集記事が載っている。

構想日本」による事業仕分けを傍聴して感じた問題点がそのまま提示されていて、
大変興味深いので、ここで簡単にまとめてみたい。


1 自治事業仕分けとは?

蓮舫さんの「2番じゃダメなんですか?」でおなじみの事業仕分けは国レベルであったが、
実はそれよりもずっと早く、すでに平成14年度には、構想日本による事業仕分けが全国各地の自治体で行われている。


平成23年2月現在で、事業仕分けを実施した団体を対象としたアンケートで、
回答のあった89団体のうち、48団体が構想日本の協力を得ていると答えている。
事業仕分けの世界では、構想日本が今のところ最強なのである。
ただ、独自の方式を導入する自治体も徐々に増えている。


事業仕分けは「公開型事務事業外部評価」であり、
自治体が事業仕分けに期待するのは、
経費縮減以外に、
職員の意識改革、
公開による住民の理解向上などがある。


2 構想日本モデルとは?


NPO構想日本は、今、最も多くの自治事業仕分けを受注している機関で、
自治事業仕分けの基本モデルを構築した機関でもある。


「スリム化・効率化」を事業仕分けの主目的とし、
予算項目ごとに、そもそも必要かどうか、必要ならどこがやるかを議論し、
最終的には、
「不要」「民間委託」「国・県が実施」「市が実施・要改善」「市が実施・継続」「市が実施・拡充」
に仕分けていくという、極めてシンプルな手法で、
事業説明(5分)→質疑・議論(20分)→評価(5分)→結果・解説(1分)
という流れにそって、一事業30分でこなしていく。

これに、市民判定人というのが加わり、
質疑・議論は構想日本の仕分け人が行うが、
実際に仕分けるのは参加した市民という「市民判定員モデル」が2009年より導入されたが、
まだ採用する自治体は少ない。

実際、実施した自治体でも、市民は聞いているだけで発言の機会がないため、満足度は低いようである。

構想日本事業仕分けを委託した場合、委託料が一般的には200万円ほどかかる。



3 事業仕分け結果は活用されているのか?


事業仕分けはあくまでも評価であり、決定機関ではない。
仕分け結果に基づいて、予算編成がされ、議会の議決を経てはじめて市政に反映される。
アンケート結果によれば、仕分け結果どおりに廃止になる事業もあるが、仕分け結果には従わず、現状通り継続される事業も多いようである。



4 構想日本の仕分け人の問題点


今回傍聴したのは、構想日本の仕分けだったので、構想日本の仕分け人にしぼって問題点をまとめてみたい。

まず、これは問題点というよりは強みなのかもしれないが、
仕分け人が極めて同質性が高いことに驚嘆した。


構想日本の仕分け人は、いろいろな経歴の人が仕分け人を兼任する形で参加しているが、
最も多いのが、他の自治体の職員である。
つまり、どこかよその自治体の市役所に今も勤めている人が、
わざわざ出張して他自治体の事業を仕分けるわけである。
自治体の仕事は自治体職員が一番よくわかっているから、
これが最も効率がいいのかもしれないが、
仕分けられる側としては、同じ立場のものに仕分けられるわけで、
複雑な思いがあるのではないかと思われる。


本来、様々な経歴を持つ人が集まるからこそ、
活発な議論が行われるはずなのだが、
構想日本としての基本姿勢は仕分け人たちによって、見事なまでに共有されている。
傍聴していて、はっきり言って、ここまで同質性が高い集団ならば、
何も複数人数をそろえる必要はないのではないかとまで感じたくらいである。


仕分け人は仕分けのプロなので、
すでにあちこちの自治体で仕分けした実績のある人たちばかりである。

そのため、初めて仕分けというものを経験する市役所の担当者に対して、
明らかに立場が上だという意識を持って接しており、
しどろもどろになって数字の説明に汗をかく担当者に、
「そんな数字もわからないんですか。経営感覚がなければ、これからの自治体の将来はありませんよ」
などとたたみかけるように迫る様子は、一種のパワハラの様相を呈していた。


また、担当者に説明を求めておきながら、
欲しいデータがすぐに提示されない時など、
あからさまにバカにしたような表情を浮かべ、
全く説明を聞いていなかったり、
途中で説明をさえぎったり、
説明者の意欲をそぐような態度が多々みられた。


時間を延長することも多かったが、
それは担当者の説明に時間をかけたからではなく、
仕分け人の質疑・議論が長引いた場合がほとんどで、
議論といっても一方的に仕分け人の意見をとうとうと述べるばかりであったので、
ほとんど構想日本のワークショップに参加しているかのような錯覚を覚えたくらいである。

進行にあたってコーディネーターの役割は大きいと感じたが、
仕分け人もコーディネーターもどちらも構想日本のメンバーでは、
構想日本の書いたシナリオ通りに進行するだけで、
全くの出来レースの感は否めない。

仕分け人を全部構想日本に委託するとしても、
コーディネーターは中立的立場を取れる人であるべきだと強く感じた。


5 誰が政策を仕分けるのか


事業仕分けは特定の事業を対象として実施される。

具体的には、個別の事業のコストと財源を見ながら、その事業の必要性を評価していくわけだが、
評価にあたって大切なのは、個々の事業より上位にある政策との関係である。


傍聴していると、構想日本の仕分け人は、担当者に対して、
「長期的展望を示せ」
「市政全体の中での位置づけは」
など、政策に関わる質問をすることが多かった。

担当課の人事について執拗に問いただす場面もあった。
「これだけの人数で回せると思っているのか」
などと言われても、人事権は担当課にはないので答えようがない。

市の政策というのは、
まずは市長が予算編成の中で示し、
それを議会が議決することで具体化していくもののはずで、
事業仕分けで仕分けるべきは、政策ではない。

しかし、それが戦略なのか、うっかり勇み足なのかはわからないが、
政策に関する質問で担当者を黙らせてしまい、
そのあと、執拗に自分たちの考えを当然のように押しつけてくるパターンがあまりにも多く、
おそらく構想日本はどこの自治体であっても、
同じような理屈で攻めているのだろうと思われた。


政策面では、市長と議会が常に同じ方向を向いているとは限らず、
緊張関係にあることも多い。

しかし、仕分け人に当然のように誘導されれば、
それが市の政策として決定したと感じる市民が出てもおかしくはない。

政策は仕分けさせないという線引きをはっきりしないと、
住民自治の基本がおろそかになるのではないだろうか。


6 事業仕分けで住民の理解は深まるか


構想日本は、事業仕分けの効果として、
・歳出削減
・職員・住民の意識改革
の2点をあげている。

自治体側も、事業仕分けの目的として、
・住民の市政に対する理解を深める
ことをあげている。

たしかに、今の日本の地方議会では活発な議論がされているとは言えず、
情報公開も中途半端で、
住民はわが市で起こっていることを、
あとから新聞報道などで知ることが多い。
だから、事業仕分けを傍聴することによって、
新たな発見はとても多いと思うので、
そういう意味では事業仕分けは画期的取り組みであるといえる。

しかし、一事業あたりたかだか30分程度で、
収支報告を見ながら次から次へと仕分けていくだけなので、
これを見たからといって、市政を総合的に知ることはできないと思う。

特に数字に弱い市民などはお手上げであろう。

せいぜい、
「お役所仕事はムダが多いなあ」
程度のことを再認識するくらいだ。

岡山市では、「市民事業仕分け」と題して、
構想日本スタッフは入れず、
市民評価者が一事業120分でじっくり議論して仕分けている。

議論をするとなると、
市民評価者は事前に相当勉強していなければならず、
ディベート能力も試される。

大変しんどい作業であるが、
市民生活にかかわる事業を仕分けるというのは、
そういうしんどいプロセス抜きでは考えられないはずで、
政策部分をアウトソーシングしてしまう、構想日本モデルは、
事業仕分け導入期には必要かもしれないが、
慣れてきたら各自治体独自のスタイルを確立していくべきだろう。


7 結論


いったん議会の議決を経て決定した事業を仕分けるには、
決定したときと同じくらい慎重な手続きをふむべきで、
外部の人たちによる評価と判断に安易に頼るべきではない。


アンケートによれば、事業仕分けについて、以下のような指摘があった。


・対象事業を網羅できず、選定の基準が不透明
・短時間の説明では担当者の説明能力によって判定が左右される
・すべての事業を同じ時間で検討するのは困難である
・住民代表でなく地域の事情を全く知らない仕分け人の判定には疑問がある
・住民からの感情的反発がある


また、仕分け結果に基づいて廃止された事業に、


・敬老祝い金
・母子家庭支援
交通災害共済
・バス運行
・中小企業支援


など、弱者保護の施策が数多く含まれていることを忘れてはならない。

これらの事業は、経済の論理がなじまないからこそ行政が取り組んできたのであり、
それを、「スリム化・効率化」ありきでどんどん削っていくというのは、違うと思う。

厳しい財政の中、仁義なき予算の取り合いが行われているわけだが、
事業仕分けがその争いに利用される政治的な道具にならないよう、
市民が厳しく監視していかなければならない。




・・・
ということで、事業仕分け傍聴記全体の結論 :


しょせんは、事業仕分けも、ゼニの取り合いだから、仁義なき戦いになって当然・・・



Victoriaでした。