田中周紀 「国税記者 実録マルサの世界」 (4)キャノン大分工場脱税事件
こんにちは。Victoriaです。
- 作者: 田中周紀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/12/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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さて、「国税記者 実録マルサの世界」の著者、田中周紀氏によると、
国税庁記者クラブというのは、最もキツイ現場、
なぜなら、
国税関係者の口がめちゃくちゃ堅い。
例えば、新聞やテレビで、
「○○会社が脱税の疑いで刑事告発されました」
というニュースが報道されることがあるけど、
あれは、すべて記者が独自に取材して発掘したもの。
警視庁や東京地検特捜部が容疑者を逮捕すると、
記者を集めて「レクチャー」を行い、
情報を提供するのに対し、
国税庁記者クラブでは個別の事案についてのレクチャーは全くない。
なので、国税庁記者クラブに配属される記者は、
警視庁や特捜部を回って成果をあげた強者ぞろいらしい。
それに加え、テレビの場合、
視聴者が知りたいのは、
「どんなヤツが脱税したのか?」
つまり、脱税者の顔がないとニュースにならないので、
コイツはそろそろパクられるな・・・と目星をつけたら、
シャバでうろうろしている間に隠し撮りをしておかなければならず、
夜討ち朝駆けのハードな取材が待っている。
ふ〜ん、そうなんだ・・・
・・・
本書には、さまざまな脱税の手口が紹介されているけれど、
全部読んだ感想は、
脱税でつかまるのって、
駐禁切られるのと同じレベルだな・・・
刑事告発された脱税者たちは、
結果としてばれたから捕まっただけで、
おそらく、氷山の一角なんじゃないか、
捕まった脱税者についても、
過去3年間をさかのぼるだけで、
それ以前のものはやり逃げみたいなものだし、
ホントにずる賢いヤツっていうのは、
バレないように、一見合法的なやり方で、
うまくやるんじゃないか・・・
そもそも、
巨額の脱税をするということは、
それだけかせいだということで、
読んでると、
みんなものすごく働き者なのね。
バツを与えるにしても、
会社をたたまなけれがならないくらい、
コテンパンにやっつけたら、
取れる税金も取れなくなってしまうから、
国税当局には、
懲らしめつつ、息の根は止めない、みたいな加減が要求されるんじゃないかしら・・・
・・・
なので、
本書に登場する脱税者のみなさんは、
誰一人としてキライになれなかった、
一人をのぞいて。
その一人が登場するのが、
<キャノン大分工場の建設をめぐる脱税事件>
田中周紀氏によると、
査察部が取り上げる脱税事件に、
日本を代表するような大企業が絡むケースはまずない。
刑事罰を与えられるほど悪質な脱税の多くは、
何らかのきっかけで急拡大した新興企業が起こすもので、
経営規模が大きい大企業は、
経理体制がしっかりしていて、
社長一人が簡単に金を動かせるような単純な組織ではない。
だから、この事件も、
キャノン本体が脱税したわけではなく、
キャノン利権に食らいついた大分県の建設コンサルティング会社によるもの。
経団連会長もつとめたキャノン6代目社長、御手洗富士夫は、
大分県の出身。
社長就任と同時に、
地元の親友、大賀兄弟と公私ともに接近し、
弟の大賀規久は「社長特別秘書」と呼ばれるほど骨身を惜しまず御手洗に尽くした。
キャノンの大分工場建設が決まると、
ゼネコンに売り込んでまわり、
受注が決まった鹿島建設には見返りとして巨額の裏金を要求。
鹿島は裏金の支払いに同意したが、
まともに受け取っていたら法人税の負担がハンパないので、
「B勘屋」を使うことを思いつく。
B勘屋とは、倒産した企業などから領収書を買い取り、
架空の経費を計上して税金を減らそうとする経営者にこれを販売する脱税請負人のこと。
大賀はありとあらゆる手を使い、
本書に掲載されているチャートを見てもゼニの流れがさっぱりわからない複雑なルートを作り上げて、
脱税に成功。
隠した所得、
35億円。
隠したことも驚きだけど、
それだけのゼニをそもそも引っ張って来たこということに、
純粋に驚きたい・・・
ゼネコンって、
ホント、お金あるのね・・・
普通、脱税したら、
そのお金を使ってぜいたくしたり、
ビジネスに投資したりするものだけど、
大賀は、ほぼ全額を、
キャノンの株式に投資。
あれだけ苦労してかき集めた裏金を、
全部キャノンのために使ってしまうなんて、
一体、何が目的だったのでしょう・・・???
結局、鹿島建設に税務調査が入り、
そこで明らかになった不透明なカネの流れから、
大賀の壮大な脱税スキームはバレることとなる。
法人税法違反で起訴された大賀に、
執行猶予はつかず、
現在収監中。
脱税は大賀がやったことで、
御手洗は一切関係がないといえばそうなんだけど、
公私ともに自分に尽くした腹心ともいえる人物が逮捕された当日、
「非常に残念。キャノンも私も事件に何ら関与していないことははっきりしている。
長年の友人だが弁護する気はない。気づかなかったことは残念」
というコメントを残している。
御手洗を守ることが、
利権を守るために最も大切なことだっただろうから、
大賀にとっては、御手洗と距離をおくこともまた、最初から織り込み済みのシナリオだったのかもしれないけど、
大賀が刑期を終えて出てきても、
以前通り、御手洗に尽くすのだろうか・・・
キャノンは好きな会社で、
キャノン製品には数え切れないほどお世話になっているし、
御手洗氏のことはよく知らないから、
この事件のてんまつを知っただけでどうこう言える立場にはないんだけど、
少なくともこの本を読んだ限り、
悪者ではないけれども、
好感は持てない人物のような気がして、
キャノン製品に対して、
軽〜い不買運動を起こしてしまいそうで(つまり、しばらく何も買わない)
ちょっと、こわい・・・
・・・ということで、本日の結論 :
脱税は人間関係をゆがませてしまうから、
やらないほうがいいみたい・・・
国税当局は、
素人がちょっとした思いつきでする脱税にだまされるほど、
バカじゃないってことね・・・
Victoriaでした。