田中周紀 「国税記者 実録マルサの世界」 (5)クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

こんにちは。Victoriaです。

国税記者 実録マルサの世界

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さて、「国税記者 実録マルサの世界」で紹介されているケースは、
一件をのぞいて、すべて決着がついた脱税事件。




いまだ現在進行形の事件とは、





クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件。





本書が執筆された段階で、
特捜部がどう処理するのか結論は出されていないと書かれていたので、
ググってみたところ、






告発された脱税容疑の嫌疑者が、
えん罪だと主張して戦っていた!






おお!
これは、大事件ではないか!





ということで、
この件について、
ここで詳細にまとめてみたいと思います。






・・・

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件>



1 事件のあらまし



08年11月、外資系証券会社「クレディ・スイス証券」の社員と元社員合わせて約300人が、
海外の証券口座で受け取った親会社の株式の所得を適切に申告していなかったとして、
日本の国税当局から追徴課税された。
査察部はその中から無申告の金額が最も大きかった元社員一人を告発した。




2 事件はなぜ起こったか?




クレディ・スイス証券の親会社CSGは、スイスのチューリヒにある世界有数の金融機関。
06年、東京にクレディ・スイス証券が誕生。
クレディ・スイス証券の社員数は約700人なので、
元社員と合わせて約300人が税務署から呼び出されたというのは、尋常ではない。





クレディ・スイス証券では、社員は賞与を、現金、CSGの株式、退職金の積み立てという形でもらっていて、
株式の付与によって発生する所得と、
その株式を転売して得た譲渡所得をともに申告していなかった社員が多かった。





約300人の申告漏れ総額は、約20億円。
追徴税額、数億円。





外資系証券会社社員による大規模脱税事件の様相を呈しているが、
原因は、CSG株式の所得は自分で税務申告しなければならないということを周知徹底していなかった会社側の姿勢にあった。





会社が社員に支払う給与については、もちろん、会社に源泉所得税を徴収する義務があるが、
海外で支払う分については源泉徴収の義務はない。




従って、社員ひとりひとりが確定申告しなければならないが、
申告漏れを指摘された社員は、
会社が源泉徴収してくれていると思いこんでいた者が多かった。





会社側はたしかにお知らせ文書を送付していたが、
はっきり「源泉徴収していない」と書かれておらず、
周知徹底させていたとは言えない。




ただ、クレディ・スイス証券は、
専門用語で「ディスクレーマー」と呼ばれる文言を文書に入れたことで、
法的責任を回避できたことになる。




社員を混乱に陥れて、会社側には何のメリットもないように思えるが、
自らの身だけはきちんと守るあたり、さすが百戦錬磨の外資系老舗金融機関だよね・・・





3 ストックオプションと税金の仕組み



賞与を現金ではなく、ストックオプションや株式で付与されるというのは、
外資系企業に多い。




ストックオプションなんて見たこともなく、
どういう仕組みで税金が課されるか、本書で初めて知ったので、
ここでちょっとまとめてみると、




ストックオプション」というのは、「新株予約権」のことで、
会社の役員や従業員が、自分の会社の株式を、
定められた期間の内に、あらかじめ決められた価格によって無償で取得できる権利のこと。



株価が権利行使価格を上回れば、
時価よりも安く自分の会社の株式を手にできるし、
売却すれば、売却益も得られる。




ストックオプションには2段階で税金がかけられる。

  1. 権利を行使して自社の株式を取得した段階で発生した「含み益」は「給与所得」とみなされ、課税の対象。
  2. 株式を売却した段階で、差額分は「譲渡所得」として課税の対象。

たしかに、この仕組みは日常的に利用するものではないし、
そもそも、ストックオプションを付与されるような人は、
もともとの給与所得が高額で、
確定申告をしてわずかな還付金でももらおうという庶民とは違い、
言われなければ、自ら進んで確定申告しようなんて手間はかけない人たちだろうなあ・・・





4 八田隆氏はなぜ告発されたか?




さて、300人以上が呼び出されるという異例の事態を招いたクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件。



本来なら、修正申告して終わりのはずなのに、
なぜかそうはならなかった。





10年2月、査察部は所得税法違反の疑いで八田隆氏を東京地検特捜部に告発。
07年までの3年間で隠した所得は3億6000万円、脱税額1億3000万円。




八田隆氏は、01年から07年4月までクレディ・スイス社に在籍。
国税局から呼び出しを受けた時は、
クレディ・スイス社は退職し、カナダのバンクーバーに移住して日本にはいなかった。





八田隆氏の申告漏れ額が突出していたのは、
退職時には、日本企業の「執行役員」に当たる「マネージング・ディレクター」の肩書きを持ち、
年収が2億円を超え、かつ、会社側の都合で退職したため、将来の分まで前倒しで受け取ったためである。





八田隆氏もほかの社員同様、
税理士に源泉徴収票を提出すれば、給与関係の税務作業は終わりという認識だったため、
意図的に申告しなかったわけではない。





国税局から呼び出しを受け、
カナダから帰国、
修正申告に応じる準備を進めていた八田隆氏だったが、
事態は急展開、
08年12月、東京国税局査察部による強制調査を受けることとなる。




そこから、八田隆氏の長い長い戦いが始まる。





普通、個人の場合は2〜3ヶ月で終わる調査が、
ズルズルと1年3ヶ月続き、
査察部が告発に踏み切ったのは、10年2月。




クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件で強制調査されたのは二名だが、
告発されたのは、八田隆氏ただ一人。




その後、特捜部はなぜか八田隆氏の事件を放置。




長い沈黙を破り、任意の事情聴取を始めたのは、
なんと1年7ヶ月後の11年9月。




その間、別の外資系証券会社に就職する話が進んでいた八田隆氏は、
その話を白紙に戻すことを余儀なくされ、
ただじりじりと経過を見守るしかなかった。





本書が書かれた11年11月の時点で、この事件はまだ決着していない。





本書によれば、
査察部が告発した脱税容疑の嫌疑者を、
特捜部が不起訴またな起訴猶予にしたことは、これまで記録になく、





告発したはいいものの、
意図的な隠蔽だと断定するだけの要件を満たしておらず、
あらたな証拠探しのために時間稼ぎしているのか、




あるいは、
何か別の意図があるのか、




真相はいまだ闇につつまれているわけだが、





弁護士には、
「痴漢のえん罪と同じで、納得することも必要」
と言われながらも、
逮捕を免れるためにウソをつくことはしたくないと否認を続けている八田隆氏。





この事件は、今後、どうなるのだろうか・・・???





・・・


八田隆氏はブログを開設なさっており、
そちらにおじゃましてみたところ、
今も果敢に検察と戦っていらっしゃる模様。




八田隆氏のブログはこちら→「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン




ミスはミスだけれども、
うっかりミスの範疇の話で、
修正申告すれば一件落着のはずなのに、
ここまで話がもつれてしまったのは、
額が大きかったため、国税当局の手を離れて検察に行ってしまったからだと思うんだけれど、




組織のプライドって、
平気で一人の人間の人生をふみにじることができるからね・・・




八田隆氏は、
とても有能な証券マンでいらして、
おそらく、今まで納めた税金の額をトータルしたら、
こんなふうに社会的に抹殺したも同然の扱いをするよりも、
ずっと第一線で働いてもらって引き続き税金を納めてもらったほうが、
国としてもずっと得だということがわかると思うんだけど、
そういう風に考えないんだね、国税当局っていうのは・・・





本書で登場する他の脱税者たちは、
多かれ少なかれ確信犯というか、
思い当たるフシありありだから、
バレたんなら仕方ない、払わせてもらいますって感じで、
告発されて余分なお金は取られたかもしれないけど、
人生までは奪われていない。





だけど、一番まっとうに暮らしてきて、
おそらく日常的にちっちゃなごまかしとも無縁だったはずの八田隆氏が、
最もダメージを受けているというのは、
ホント、ご本人は解せない気持ちでいっぱいだと思うんだけれども、





ただ、事態がここまで膠着してしまったからには、
八田隆氏には、
このことでつぶされてしまわず、
強く生きていってほしいと心から願うばかりで、





国家権力と戦うっていうのは、
勇気もいるし、
お金もかかるし、
人間関係もズタズタになったりするんだけれども、
最大の災難は、
心がすさんでかたくなになってしまい、
夢や希望を失ってしまうことで、






例えば、
少年が非行に走ったり、
少女が売春に走ったりするのも、
根っこのところでは、
最初はささいなボタンの掛け違えみたいなことがきっかけで、
世の中に背を向けるみたいなことになって、
気がついたらどっぷりそちらの世界に染まってしまっていたみたいなことが多くて、
そう考えると人生、吉と出るか凶と出るかは、
紙一重だなって思うんだけれども、





不幸にも国税当局に白羽の矢を立てられてしまった時点で、
もう元の生活に戻ることはできないことがほぼ確実なので、
八田隆氏には、ここは腹をくくって、
ぜひ自分を貫いていただきたいと心から思います。





直接、声をかけてくることはなくても、





「八田、がんばれ!
負けるな、八田!」





とひそかに応援している人は、
潜在的に、おそらく、





100万人くらいはいるのでは・・・???





誰だって、好きで脱税してるわけじゃなく、
ビジネスの世界は浮き沈みが激しいって身をもってわかっているからこそ、
困った時のために裏金作ろうとするわけだし・・・





てゆーか、
戦ってる男性って、
男の色気がムンムンしててステキ・・・





ということで、本日の結論 :




売られたケンカは買えっていうのは、
人生の鉄則よね・・・





<八田隆さんへ>






これをバネに、
人生、羽ばたいちゃってください。
応援しています。






Victoriaでした。


・・・

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