伊関友伸著「地域医療 再生への処方箋」 第7章 自治体病院の「赤字」について考える

地域医療 ~再生への処方箋~

地域医療 ~再生への処方箋~

あの、村上智彦さんを夕張にひっぱった伊関さんの本です。

村上智彦さんについてはこちらをご覧ください。
村上智彦著「村上スキーム」 - Victoriaの日記

第7章 「自治体病院の赤字について考える」

で、病院会計の読み方がのっていましたので、今日はそちらを中心に読んでみました。
自治体病院の会計は、自治体の会計とも違うし、民間の病院の会計とも違う。
どこが、どう違うのか。簡単にまとめてみます。

1 自治体病院企業会計

自治体は、ある期間の現金の出入りだけを記録する一般会計(現金主義=単式簿記)を採用している。

しかし、自治体病院は、すべての費用および収益を発生の事実に基づいて割り当てて記録する企業会計(発生主義=複式簿記)を採用している。

自治体は、現金支出部分について予算を作成し、議会の議決を受けなければならない。そこで考えられた概念が、「収益的収支」と「資本的収支」の二つの収支で、これは一般会計にも企業会計にもない概念である。

2 「企業債」は資本

公営企業会計では、借入金である企業債は「借入資本金」として「負債」ではなく「資本」に位置付けている。

3 減価償却費の内部留保

損益計算書に計上される減価償却費は、現金支出を伴わない費用で、減価償却累計額が増加すると固定資産の金額が減少し、それと同額が流動資産の増加となる。これを減価償却費の内部留保効果と呼ぶ。

自治体病院の会計で、減価償却内部留保の考え方はとても重要で、最近よくマスコミでとりあげられる「自治体病院の累積欠損金」は、それが減価償却累計額以下であれば、病院経営上さほど問題ではない。

4 企業債の元本と利息の返済

財務諸表上、企業債の元本は、貸借対照表上の企業債の金額が返済額に応じて減額される。一方利息の返済は、損益計算書に「支払利息」として計上される。

企業債の元本の償還については、自治体の一般会計からの繰入金を充てる。それで不足する分は、減価償却内部留保された貸借対照表上の現預金で支払いがされる。

それができない場合は欠損金を生じることになる。しかし、貸借対照表上で一定の現預金の額を確保していれば、累積した欠損金が巨額になっても病院運営上の問題はない。

5 巨額の累積欠損金は誰が負担するべきか

自治体病院が抱える累積欠損金は誰が負担するべきか。
そもそも、自治体病院の設置コストは誰が負担するべきか。

病院の建設コストは、将来立て替えるべき資金(内部留保資金)として現世代が貯めておくべきか。それとも、立て替え後の受益者(将来世代)が借入金の返済という形でまかなうのか。

減価償却は、償却資産の費用を配分することを目的に行われるが、同時に、病院に現預金を内部留保させ、建物や医療器械の再投資への原資をもつという効果がある。しかし、自治体病院にとって、建物や医療器械への投資には、地方交付税の裏付けのある企業債の起債が認められており、多額の現預金を持つ必要はない。したがって、将来の世代のために減価償却分の現金を積み立てる必要性は薄いのではないか。

  • 考察

この本を読んで、ためしに地元の自治体病院の決算書を分析してみました。
すると、累積欠損金は年々増加し、赤字まみれになっているように見えるけれども、減価償却累計額と比べると、欠損金のほうが少ないので「経営上問題ない」ということがわかりました。

自治体病院は赤字だってず〜っと聞かされてきたので、ちょっと意外。

伊関さんが指摘しているように、自治体病院が赤字なのは、会計処理のシステム上の不備による部分も大きいので、赤字の中味を慎重に吟味しなければならないと思います。

企業会計を採用しているとはいっても、例えば民間企業がよくやる「減資」をして累積欠損金を解消することは法律上認められていなかったりするので、累積欠損金だけをとりあげて「赤字だ」と決めつけるのは危険。

自治体病院のオーナーは住民なのだから、最終的には住民が病院の維持にかかるコストをどれくらい負担するかを決めていくしかない。住民のニーズにこたえるのであれば、毎年自治体の一般会計から繰入金を出すことも仕方がないのではないか。

地域医療の問題は、地方だけでなく、都市部でもすごく大きな問題だと思います。
もう少し、この問題について勉強続けたいと思います。

それにしても、初めて病院の決算書っていうのをすみずみまで調べたけれど、順をおっていけば読めるようになってることがわかりました。

総務省のHPで全国の自治体病院のデータが見られます。

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