江川紹子「名張毒ブドウ酒殺人事件」     三角関係解消のため男は殺人するか

こんにちは。Victoriaです。

さて、
名張毒ブドウ酒事件で、
再審請求を名古屋高裁に退けられた奥西勝さんが、
体調不良で入院なさった時、








「入院中も手錠をかけられたままなんてひどい、
人道的な対応を求める」










と、
死刑の停止と釈放を要請なさった江川紹子さま。








ひさびさに、
江川紹子さまの、
断固としてお上の横暴を許さないというきっぱりしたお姿を拝見して感動したので、
早速、これを読んでみた。

名張毒ブドウ酒殺人事件――六人目の犠牲者 (岩波現代文庫)

名張毒ブドウ酒殺人事件――六人目の犠牲者 (岩波現代文庫)









江川紹子さまといえば、
オウム事件で世間が大騒ぎしていた時、
あちこちの番組に出演なさり、
どんな時も冷静な口調で事実関係を淡々とお話になっていたお姿が印象的。










実は、
ここだけの話なんだけど、









私は、
あんまり有名人の誰に似てるとか言われたことなくて、
それは、
地味な外見に生まれついているからなんだけど、









江川紹子さまがテレビに頻繁にお出になっていた時、








「相手をリングの隅に追い詰めて容赦なくとどめの一発を刺すやり方が江川紹子さんにそっくりだ」








と言われたことがありまして・・・









その発言をかました男性とは、
ほどなく別々の人生を歩む決定をいたしました・・・










・・・


さて、
名張ブドウ酒殺人事件」だけど、








この事件については、
今まで裁判でもめるたびに、
新聞で大きく報道されたりしていたから、
結構知ってるつもりだった。









名張市葛尾の事件現場にも行ったことあるし、
別に事件があったから行ったわけではなく、
後から、ここがあの場所だよって教えてもらって気づいたんだけど。









でも、
本書を読んで、
実は何もわかってなかったってことがわかった。







なんとなく、
奥西勝さんは無罪かもしれないけど、
でも二股かけてたんでしょ?
それはダメだよね〜なんて思っていたんだけど、









全然、
そういうのどかな話ではない。









事件が起こった昭和36年当時の捜査に、
今では考えられないくらいずさんなところがいっぱいあったとか、
自白を強要したフシがあるということは、








もちろん許されるべきことではないんだけど、








時代背景を考えると、
そういうこともあるだろうと思える。








だけど、
再三出している再審請求を棄却する時の理由が、
もう、正気とは思えないほどむちゃくちゃで、
それが一番ショック。






だって、
それを現在進行形で、
今、2012年にしてるのよ。






組織を守るために過去の判決を覆すことはできないのだといわれるけど、
事件当時の捜査関係者なんてとっくの昔に引退しているんだし、
だいたい、今、生きてるかどうかもあやしい。








誰が、
何を守ろうとして、
とても合理的とはいえない理由で、
ここまでひっぱってひっぱって、
ついに奥西勝さんの寿命が尽きそう(86歳)になるまで、
うやむやにしているのか。









奥西勝さんのご長男も、
実はすでに亡くなっているとのこと。








奥西さんは死刑囚なので、
家族以外には面会できない。







ご両親も他界し、
ご長男まで亡くなって、
もう、面会に行く人もいなくなってしまっただろう。








これも本書で知ったことだが、
名張ブドウ酒事件の取材をかれこれ20年続けていらっしゃる江川紹子さんが、
奥西勝さんに会いたいと名古屋拘置所に行ったとき、









「死刑囚には面会はできない。法務大臣が決めたことだ」









と言われ、
面会できなかったという。









実は、
法務大臣が死刑囚の処遇について、







通達






を出しており、
その中で、
家族以外の者には面会させないことを決めているのだった。











国会での審理をまったく経ることなく、
一枚の通達で法律で定める権利を剥奪しているのである。









また、通達か・・・







一官僚の通知で国が大混乱におちいった例については、
こちらでもみたばかり→NHKスペシャル「生活保護3兆円の衝撃」 混乱は厚生労働省の一課長による通知で始まった - Victoriaの日記







ホント、
なんか間違ってるよね・・・







・・・



さて、
それで、
この事件がなぜこんなに長く終わらないのか、
奥西勝さんが無罪だといえる根拠は何なのか、については、
本書を読めばすべてわかる。









ホントに、
もしも、今、日本に、
江川紹子さまがいなかったら、
もっとダメな国になっていただろうと思うくらいで、









興味がおありの方には、
ぜひ一読をおすすめしたいんだけど、









それで、
なぜ、
警察が、
奥西勝さんが妻と愛人の板挟みになって苦しんだあげく、
二人同時に殺すことを思いついたというストーリーに飛びついたかということを考えてみたんだけど、








日本には全く違う二つの貞操観念が存在し、
捜査関係者と奥西勝さんが真っ向から対立したから









だと私は思う。









例えば、
最近、
巨人軍の原監督が、
女性問題でゆすられて1億払ったっていうのがバレたばかりだけど、







あれなんかも、






「浮気したという事実よりも浮気がオフィシャルにばれるダメージだけは避けたい」








と考え、







妻&浮気相手の女性の気持ち < お前は浮気も隠しておけないような脇の甘い男かと後ろ指さされて傷つく自分の名誉







という価値観に基づき、








本来なら半分は妻のモノでもあるはずの一億をみすみす支払ってジ・エンドしたつもり








っていう・・・








原辰徳、完全にこのことで男を下げたわね・・・








・・・




名張毒ブドウ酒事件発生当時、
奥西勝さんは、
妻と近所の未亡人の二股をかけていた。








本書を読むと、
この3人は仲がよく、
毎日3人で連れ立って仕事に行っていたという。








それで、
奥西勝さんの貞操観念の話に戻るんだけど、









江川紹子さんは、
この地域には、








「たらいころがし」








という風習があったことを紹介している。









「たらいころがし」というのは、
傾斜地で洗濯かなにかをしている妻が、
わざとたらいを転がし、








転がり落ちていくたらいを追いかけて傾斜地をおりていく亭主がいない一瞬のスキをついて、
ちゃっちゃっと他の男とナニしてしまうという・・・









ついでに、
たらいを追いかけていった亭主も、
傾斜地の下にたまたまいたよその奥さんとナニして、
戻ってくるのが遅れて万事は丸くおさまる・・・









これだけ聞くと、
どんなだらしない人たちなんだと思われるかもしれないけど、
時代は昭和30年代。









まだ日本の農村には夜這いや無礼講の風習が残っていた時代。









古来、
日本の貞操観念というのは、
農村のほうが開放的で、








なんとなく、
生活が派手な都会のほうが開放的という印象を持つと思うけど、








閉ざされた社会で、
近くに娯楽場があるわけでもなく、
女を買えるわけでもない農村では、








村全体で、
セックスを共有する暗黙のルールが、
社会の治安維持のためにはぜひとも必要だったのである。








このあたり、
夜這いの生き証人のこの方の著書に詳しい→夜這いの民俗学・夜這いの性愛論(1) - Victoriaの日記
夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 (2) 筆下ろし・水揚げ - Victoriaの日記

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論









・・・



それで、
事件を捜査する側に立った方たちを含め、
組織に属していた男性たちは、








プライベートではヤリマンだったかもしれないけれども、









そういうご自分自身のムスコの機嫌とは関係なく、










浮気は男の甲斐性だけど、
それは妻に知らせるべきことではなく、
まして、
世間様からは何が何でも隠しとおさなければならない種類のスキャンダルだ。









というガチガチの価値観をお持ちのはず。









そういう人たちからしてみると、








狭い集落で、
美人妻がいながら、
美人未亡人にも触手を伸ばし、
村中にその関係が知れ渡っていながら、
全く悪びれない男がこの世に存在するという事実はとても受け入れられない。









浮気が妻にばれたら、
いろいろとメンドーで、
毎晩毎晩妻にそのことで追求され続けたら、
どんな男でもノイローゼになり、
殺人のひとつやふたつ、
犯してもおかしくはなかろう・・・








そういう共通認識があったからこそ、







住民に対して、
様々なアリバイねつ造工作をかましていながら、
この事件はゼッタイ有罪だと世間が認めるという自信にあふれていたのだろう。









奥西勝さんの証言を読むと、








たしかに浮気がばれて、
妻とはけんかが絶えなかったらしいけど、








旅行に行ったら、
妻と愛人の二人におそろのおみやげ買ってきたりとか、








妻とも、
ちゃっかり夜の生活営んでいたりとか、









それに何より、
未亡人とのセックスはセックス以上の何物でもないということを公言していて、







それは、
まさしく本音だったんだと思う。








これも、
「夜這いの民俗学」に詳しいけど、








昔は、
集落に未亡人がいたら、
(昔の男はよく死んだから、未亡人発生率も高かった)
喪が明けたころを見計らって、








厄落とし







をしてあげて、
未亡人の身体のうずきを解消してあげるというのは、
これはほとんど、








男の義務








だったのである。








だから、
集落には他にも男はわんさかいたにもかかわらず、
自分がピックアップされて、
自尊心がくすぐられることはあっても、
そのことで自責の念にかられ、
殺人まで考えるなんて、








奥西勝さんにとってみれば、
まさに、
寝耳に水、









どこから、
そんなけったいなストーリーがわいて出てくるのか、
唖然としたにちがいない。









・・・



私自身は、
この事件を、
ずっと昔から、








妻が夫をはめた事件








だと思ってきた。








愛人は憎いから殺す。
自分ももう生きてるのがつらいからいっしょに死ぬ。









だけど、
一番憎い夫は道連れにはしない。









自分がなぜ死ななければならないのか、
そのことについて悩むことなく、
ラクに死なせるなんて、
そんなことあってたまるものか。








夫には、
じわじわと世間に裁いてもらい、
生き地獄を味わってもらう。








だから、
あたかも夫が仕組んだ事件のように見せかけて、
自分は死ぬ。







そんな風に、
妻が計算ずくで仕組んだ事件だと、
ずっと思ってきた。











だけど、
今回、本書を読んで、
考えが変わった。









三角関係に悩む女が殺意を抱く時というのは、
たいてい夜、
男が別の女のところへ行って帰って来ない時で、
そういう時というのは、
ヒステリー状態だから、
アリバイがどうとか、
そういうめんどくさいことは考えない。








とにかく、
自分が捕まるかどうかなんてこととは関係なく、
その場で、
二人がセックスしてる現場に踏み込んでやろうということしか考えないものだ。









名張毒ブドウ酒事件では、
集落の女性17人が中毒を起こし、
そのうち5人が即死している。









犯人は、
妻でも愛人でもなく、









誰か、
他の女性、








集落の女性全員を消してしまいたいと思い詰めるほど、
女たちのうわさや白い目にあきあきしていた女性なんじゃないか。









たまたま5人が死んで、
あとの人は助かったけど、








農薬がどれくらい毒性のあるものなのか、なんて専門知識はなく、
これで死ぬらしいということを聞いて、
入れてみただけで、








犠牲者の数を考えると、
とほうもない事件なんだけど、









女にとって殺人なんて、
普通は体力がないからムリ。






だけど、
酒瓶のふた開けて、
また閉じておくくらい、
ふだんから台所仕事に慣れてる女にしてみれば、
なんてことないわけで、









昔から、
女が人を殺す時に使う、
もっともポピュラーな手口は、








毒殺







と相場が決まっている。








台所は、
その気になれば毒にもなる食品であふれているし、
農家っていうのは、
昔から農薬使いなれていたし。









犯人が、
死んでしまった5人の中にいたのか、
生き残ったのかはわからないけど、








もしかしたら、
目当ての人物が確実に死ぬように、
お酌のひとつもしたかもしれない。








「ままま、ねーさん、
いつもお世話になっとります。
おひとつ、どーぞ・・・」









・・・ということで、本日の結論 :








色男は三角関係で悩んだりしないし、
まして、
三角関係解消のために女二人を殺そうとしたりなんかしない。










・・・



話飛ぶんだけど、
クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件」の、
この裁判の傍聴に行った時→クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件 第3回公判 傍聴記 - Victoriaの日記








傍聴に行った支援者の方たちが、
証人尋問に手応えを感じ、
いけるんじゃねー?
みたいなツイートをしたところ、








江川紹子さまが、
一言、






甘いにゃ〜









というツイートをなさっていたのがとても印象的で、








うん、
江川さんがそうおっしゃるなら、
そうなんだろうと思ったんだけど、








名張毒ブドウ酒事件で、
これだけムリムリなえん罪を作った実績があるのだから、








八田隆氏も、
心してかからないといけないのだろう・・・








・・・ということで、
奥西勝さんの戦いも、
八田隆氏の戦いも、
まだまだ続く・・・








Victoriaでした。


・・・


クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件についてはこちら→クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件 第3回公判 傍聴記 総集編 - Victoriaの日記