八田隆 in ナゴヤ (2) 私は権力体制を変える捨て石

こんにちは。Victoriaです。

さて、
クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件でたった1人告発され、
現在公判の渦中にある、
戦う男 八田隆氏に、
ツイッターでインタビューを申し込んだところ、
快諾して下さり、あっさり実現した。






第2回の公判が4月11日に行われ、
その模様はVictoriaの日記でもご紹介させていただいたんだけれども→クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件 第2回公判 戦う男のダンディズム - Victoriaの日記
次の公判の日時が早々と6月8日に決定し、
その前にどうしても八田氏ご本人の声が聞きたいと思ったからで、






Victoriaの日記は、
八田隆氏ご本人もお読みくださり、
大変好意的に受け止めてくださっていて嬉しい限りなんだけれども、






間接的に聞いた情報だけで書くのには限界があり、
つまり、







ネタ切れ。







このままでは、
これ以上内容をふくらませることはできないため、
ご本人に直接当たってみることに・・・






幸い、
八田氏がまだ日本に滞在中で、
連休中に名古屋まで足を運んでくださることに決定。






さすが、
世界を股にかけてビジネスやってきた方は、
フットワークが軽い・・・







場所は、
名古屋駅真上のマリオットアソシアホテルに決定。






ジェイアール高島屋タワーズレストラン街もあるし、
新幹線からすぐだから、
便利だし・・・






・・・


もちろん、
これが初対面だったんだけど、







お互いにブログを読んでいるから、
予習はばっちり、







同じバブル世代で、
あまり、物事深く考えず、






自分の努力で切り開ける部分には全力を注ぐけれども、







自分の能力の限界を超えており、
決定権が他者の手の内にある場合には、
くよくよ悩まず素直に結論が出るのを待つというポリシーが同じなので、








会った瞬間から意気投合。







いわば、
高校の同窓生に会ったような雰囲気で、
話の内容は深刻で笑い事ではないんだけれども、
常時、笑いが絶えず、
知らない人が見たら、
コンパの二次会って感じ。







今回の事件の発端となる、
税務調査の段階から、
ついに告発、起訴され、
公判中の現在の状況まで、
一通り話を聞いたけれども、







はっきり言って、
すでに私が知っている以上の事実はなかった。







八田氏も強調している通り、
クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件というのは、
説明はたったの30秒で終わってしまうシンプルな事件なのである。






クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件とは?>





この事件は、一言でまとめるならば、
賞与を現金ではなく、株式やストックオプションで付与された外資系企業で働く社員が、
源泉徴収されていると思いこみ、納税を怠ったという、それだけのことである。





同じ時期に国税庁はいくつかの外資系企業に一斉に税務調査に入り、
クレディ・スイス証券だけで申告漏れを指摘された社員は300人にのぼった。
彼らはそれぞれ自分の住所地の税務署に呼ばれて修正申告を求められ、
中には悪質性を指摘され、重加算税を課される者もいた。





申告漏れの金額が突出していた八田氏は、
地元の税務署ではなく、
国税局査察部の執拗な取り調べを受け、
ついには強制捜査→告発というまさかの展開になる。






八田氏に対する取り調べが始まった時期は、
例の村木さん事件の起こる前であり、
明らかに国税・検察ともどもイケイケの雰囲気だったらしいが、
途中、検察に対する世間の風当たりが厳しくなり、
トーンダウン。






検察は弱気になり、
絶対大丈夫という確信が持てない本件を起訴することに難色を示したが、
力関係でいえば、






国税>検察







で上位に立つ国税が、








さっさと起訴しろ!






とせっついたため、
検察も重い腰をあげ、
税務調査が始まってから3年という異例の長さの準備期間をおいて、
ついに起訴に踏み切る。








八田氏は、
まさか本当に起訴されるとは思っておらず、
この時まで弁護士に相談することすら行っておらず、
取り調べに呼ばれるたびに、
何とかわかってもらおうと、
真摯に説得を繰り返していたんだそうである。









職業柄、
ワケわかんないことで切れるお客さんの対応は慣れているので、
同じ感覚で辛抱強く、
あの手この手で話をしたらしいが、
証券会社のお客さんとは勝手が違い、
国税の方たちの合理性の基準がつかめず、
話が一方通行で非常に疲れたそうだ。







結局、
「あなたを告発することが私たちのつとめです」
という彼らの主張を変えることはできず、
バトンは国税から検察に渡る。







取り調べがどんな感じだったのか聞いたところ、
せまくるしいのにだだっ広い、
がらーんとした窓のない部屋に、
朝から一日缶詰にされ、
パイプ椅子に座らされてえんえん同じことを聞かれたらしい。








質問は、
国税の方たちは愚直に聞いてくる感じだったが、
検察の方たちは明らかに狡猾で、
少しでもこちらに自信なさげなところがあると即座に切り込んでくる鋭さがあったという。








「お茶とか出るんですか?」








「いや、そんなのでないです。廊下の自販機で自分で買って飲みました」








一度、
国税の担当の方が二人とも風邪をひいていて、
咳をしまくっていたので、







やっべー、風邪うつるわ・・・






と思い、
必死にカテキン取るため緑茶を飲みまくったことがあったらしい。








それはきついね・・・







・・・




実は、
申告漏れ自体に関して、
当の八田氏は何の異論も唱えていない。
その証拠に、
告発される前にすでに修正申告に応じている。







じゃあ、
一体公判で何を争っているのか?








論点はただひとつ、








八田氏が故意に脱税したのかどうか?








普通、
これくらい額が大きくなると、
うっかりということは考えにくく、
故意にちがいないと国税が最初から決めてかかっていたことに加えて、








八田氏が海外の口座を使用していたことや、
海外に居住地を移していたこと、







また、
税務調査の時期からさかのぼって3年間の収入が、
突出して多かったことなど、
いろいろな偶然が重なって、
八田氏に一罰百戒の白羽の矢がたったらしい。







また、
クレディ・スイス社が、
過去にいろいろやらかしていて、
国税の覚えが悪かったこともアンラッキーだったと言える。






おそらく、
国税としては、
別に八田氏でなくても、
額の大きい人なら誰でもよかったはずで、







取り調べで締め上げ、
それでも聞かなければ、
強制捜査し、
認めなければ逮捕すると言って脅せば、
普通、
「故意にやりました」
と言ってサインするものなので、








それで早期決着をはかるシナリオだったのだろう。






しかし、
八田氏が思いの外ガンコで、
絶対に自分はわかっていてやったのだとは認めず、
もちろん、
ホントにやってないから認めないのが人間的には正しいんだけれども、








やった、やってないという問題ではなく、
逮捕されて拘留されたり、
あるいは、
取り調べに連日国税に呼ばれるだけで仕事に穴をあけてしまい、
死活問題になる人なら、
大人の判断をして、
白を黒と言い、
やりました、すみませんでしたといってハンコを押してしまうだろうから、






国税としては、
本来、手間をかけずに、
罰金まで取れるおいしい案件だったに違いなく、
ここまで手間取ったのは誤算だったはずだ。






てゆーか、
今でも絶対故意にやったんだろうと、
ガンコに信じている節がある。








八田氏がガンコなら、
国税もガンコ、
プロとして自分の職務にガンコなのはいいんだけれども、
ガンコさを発揮する方向性が違うよね・・・国税さん・・・








実は起訴するには国税が集めた証拠では不十分で、
検察は一から調べ直している。







検察の捜査能力の高さは、
八田氏も認めていて、









彼らがやっとの思いで見つけたのが、
八田氏がストックオプションを行使するときにサインした一枚の書類。








そこの一項目に、







「会社が源泉徴収している場合に限り、以下のどれかを選べ」






という一文があり、
そこに、八田氏は斜線を引いていた。








八田氏によると、
こういう類の書類にサインを求められる機会は多かったが、
いろいろと複雑で、
あとから間違いを指摘されるのもめんどうなので、
自分で書類を読む前に、
担当者に電話して、
直接指示を仰ぐようにしていたとのこと。






今回も同じように電話で担当者に問い合わせたところ、
相手の女性がその項目については関係ないから斜線を引けと言ったので、
言われるままに斜線を引き、
目を通すことはなかった。









検察が言うには、
ここに斜線を引いてあるということは、
会社が源泉徴収していないということを認識していたということを意味しており、
したがって故意に申告しなかったのではないという八田氏の主張はウソだという証明になるというのである。








一本の斜線でここまでのストーリーを組み立てられるという能力には、
単純に感服してしまうんだけれども、







あまりにも、







重箱の隅







すぎて、
マジかよって感じは否めない。









てゆーか、
たったそれだけのことを証明するためだけに、
一体、どんだけの税金投入して調べたんだろうか?









公判が終わって、
八田氏が有罪ということになれば、
さらに罰金が取れるらしいけど、
現時点で、明らかにその金額を何倍も上回る税金が投入されているはずで、









そもそも、
クレディ・スイス証券から押収した書類はすべて英文なので、
それを翻訳するだけで膨大なマンパワーが投入されているわけで、









数字がすべての世界で生きてきた八田氏でなくても、
いったい役人の行動基準は何なのか、
何をもっていい仕事・悪い仕事の判断をするのか、
まるで異次元の世界のような話で、









こういうことがあるから、
裁判員制度に意義があるのだろうと思ったりするんだけれども、








この点が一番疑問で、
八田氏の口から解答を教えてもらいたくて、
今回、直接お目にかかったわけなんだけど、







二人の知恵を絞っても、
結局、本当のところはよくわからなかった。









担当者の出世欲?
国税のメンツ?
外資嫌い?







いろいろ考えられるけど、
そういうよくわかんない、
担当者の気持ちに左右されないように、
司法の制度設計っていうのはされているもんじゃないのか?








八田氏は、
国内の自宅だけでなく、
ご実家まで家宅捜索を受けていて、
めぼしいものは片っ端から押収されているんだけれども、








その目録の一部をお尋ねしたところ、
120%関係ないプライベートな思い出の類まで押収されていて、
ちょっと驚いた。








自分のものならば、
なかったものとして諦めることもできるけど、







家族の物だったり、
もともとは友人のものだったりすると、
全然、八田氏が悪いわけではないんだけれども、
申し訳ない気持ちでいっぱいになるはずで、








国に捜査権はあるんだろうけど、
これは明らかに、








人権侵害









のレベルなんじゃなかろうか?








例えば、
写真の類なんかも押収の対象になったらしいんだけど、









昨年の東日本大震災で被災した方々の、
思い出の写真をきれいにクリーニングして、
持ち主に戻してあげようというボランティアをしている人を知ってるけど、








家も財産も失った人が、
最後の最後にアイデンティティの証明として頼りにしたように、
写真っていうのは他人には全く意味のないものでも、
写っている本人にはお金で買えない価値があったりするわけで、








そういうものって、
今、どこに保管されているんでしょうね?








今までそういうことって、
考えたことなかったけど、







国税とか検察って、
どでかいトランクルームかなんかがないと、
すべての証拠を保管しておくスペースないんじゃない?







それもまた、
税金なんでしょ?









なんか、
考えれば考えるほど、
納税意欲がそがれる事実がてんこ盛りで、
やめてくれって感じなんだけれども、








それで、
30秒で説明終わるとかいいながら、
やたら長くなっちゃったんだけれども、







八田氏の話もまさにそうで、








経過の説明だけなら、
ホント、30秒で終わるのよ。







だけど、






「なぜ?」






って話になると、
結構、説明長くなっちゃって、








同じ話を、
もう何百回もなさってきたと思うんだけど、







長い話をコンパクトにまとめて話すということに慣れていて、
プレゼン能力の高い八田氏だからこそ、
ここまでやってこれたわけで、






世の中、
言語化能力の高い人ばかりではないから、







本当はそうじゃないんだと内心思っていても、







「お前の言うことはウソだ!」






って決めつけられると、
どうしていいかわかんなくなっちゃって、






ボソボソとワケわかんないことつぶやくだけで、
なおさら墓穴を掘っちゃう人って多いと思うんだよね。








えん罪っていうのは、
こうやって作られていくんじゃなかろうか・・・?







いわば、
兄弟げんかの後、
言い訳のうまい弟はいつも逃げおおせるんだけど、
口べたな兄は全責任をかぶって、
1人、おやつ抜きのお仕置きを受けるって構図・・・







・・・



公判はやっと第2回が終わったところ。
八田氏は今年中には判決が下るだろうとの見通しを持っており、








起訴されるのか、どうなのか、
じりじりと待ってたころと比べると、
今の方が動きがあってずっとラクだとは言うものの、








たとえ無罪でも、
控訴されればまた何年かかかるわけだし、








有罪になれば(そして、この可能性のほうがずっと高い)、







やっぱり、八田はやったのか







ってことで、
世間の風当たりも強くなるだろうから、
また再びどこかで働けるかどうかも危うい状況のようである。









ホントに、
八田氏には、
運が悪かったとしか言いようがないんだけれども、







それでも、
何かよかった点はありますかと聞いたところ、








友人との絆が前より強まったのが嬉しい







という答が、
即座に返ってきた。









今回、
八田氏は、
無罪を証明するため、








嘆願書







を昔からの友人に頼んで書いてもらっている。









私の知ってる八田隆は、
脱税するような人間ではありませんということを、







家族や友人たちが、
実名を出して書いたもので、
その一部は八田氏のブログで公開されているので、
関心のある方はぜひご覧いただきたいんだけれども→嘆願書 - 「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン








私も今回、
改めて全部読ませていただいて、
行間からみなさまの声が聞こえてくるようで、









ここに掲載されているのは集まった嘆願書のごく一部で、
おそらく、
自分や自分の家族にもしものこと(例えば報復措置として税務調査がはいるとか)があってはいけないからと、
八田氏の無罪を信じてはいても、
嘆願書を書くには至らなかった方もたくさんいただろうことを考えると、









ものすごい数の応援団が八田氏の後ろにはいるんだということを、
思わずにはいられない。








人というのは印象で他人を判断しがちで、
特に、最近は、
たった140文字のツイートでニュースのすべてをわかった気になってしまいがちだから、








告発=起訴=有罪=悪いヤツ







で決まりみたいなところがあるかもしれないけど、







訴えられている八田氏は、
外資のハゲタカなんかでは全然なく、







むしろ、
日本の地方都市で標準以上に厳しくしつけられ、
金銭欲や物欲ではなく、
純粋な好奇心で動く人間であり、
人との絆を何よりも大切にする、
典型的な日本男児であるということが、
これらの嘆願書からひしひしと伝わってくる。







なかでも、
一番短いんだけれども、







一番本質をついていると思う一通があるので、
ここにご紹介したい。









八田隆は、国税局の方々からすれば、ただの調査対象の一人、あるいは犯罪者と見えてるかもしれませんが、僕にとっては大事な父です。そして僕も彼が犯罪者でないと確信しています。父は昔から仕事一筋で真面目にやってきました。
それをただ一回の誰にでもありうるミスで咎められるのはあんまりだと思います。父は無実故に犯罪者として扱われる事に苦しみと悲しみを感じています。応援する家族の側もみな同じ気持ちでいます。私達も国税局の方々と同じように生活し、家族、そして同じ人間であるという事をもう一度ふまえて父を犯罪者と決めつける前に人間として考えて欲しいです。

お願いします。







短い文章だけれども、
今回の事件のすべての本質が凝縮されていて、







ああ、
この文章を書いてくれた彼のためなら、
八田氏は自分の人生を捨ててもいいと思っているにちがいないと確信した。







八田氏自身、





私は権力体制を変える捨て石







とおっしゃっていて、
それは遠い遠い道のりで、
八田氏1人の力でどうにかなることではないんだけれども、







この事件のてんまつを知ってしまったからには、
もう、見なかったふりはできない。







・・・ということで、本日の結論 :







八田隆氏は何のために戦っているのか?







答 : justice






Victoriaでした。



・・・

八田隆 in ナゴヤ バックナンバーはこちら。
八田隆 in ナゴヤ (1) えびふりゃ〜 - Victoriaの日記


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