売春未満

こんにちは。Victoriaです。

名前のない女たち」をお書きになった中村淳彦さんが、
「売春未満 新・名前のない女たち 素人女性編」を出版。

売春未満?新・名前のない女たち 素人女性編

売春未満?新・名前のない女たち 素人女性編



感想 : 夢も希望もない本で、読んでて暗〜くなった・・・



本書は、素人専門の男性アダルト月刊誌「ストリートシュガー」に応募してきた女性を取材したもの。


「ストリートシュガー」は、昭和58年創刊、28年も継続しているエロ本で、
全国の女の子たちがカメラマンや編集部員に路上でナンパされてハダカやセックスをさらす衝撃的な内容。
いわば、素人の女性をお金で釣り、だまして脱がしてきたわけだが、
ここ10年は編集部に出演希望の応募が急増、
アポなしで地方に行っても出会い系サイトで簡単にモデルがみつかるので、
素人の女の子の確保にはまったく苦労していないばかりか、
応募の9割は断っているそうである。


「ヌードだけでもOK」というモデル募集の広告を出し、
風俗はこわいけど、ちょっとだけどんな仕事かのぞいてみたい、という好奇心をくすぐり、
軽い気持ちで応募してきた女の子をその場で口説く。
雑誌にはDVDを付録でつけるので、本番の撮影もするわけだけど、
ほとんどの女の子が口説きに応じ、
ハダカを隅々まで撮影されて、会ったばかりの編集部員やカメラマンとセックスして、
そのすべてをさらした写真が誌面に掲載され、ハメ撮りされた映像がDVDにプレスされて全国のコンビニにばらまかれる。

自分のハダカが全国に流通される対価は、
自宅撮影で4万円、自宅NGの場合3万円、本番ありで5〜7万円。

応募が急増したのは、
ネット社会になって、メール一通で軽い気持ちで応募できる環境が整ったこともあるし、
風俗ではないという安心感もあるのかもしれない。

しかし、中村さんによると、一度ハダカになってお金をもらったら一度で終わるはずがなく、
みんなこれをきっかけに、本格的な風俗嬢になったり、売春するようになっていくという。


長年、AV女優や風俗嬢などを取材してきた中村さんは、
2000年あたりからだんだんと、そして2006年あたりから決定的に、
ハダカの仕事の社会的な評価と体を売る女性たちの意識が変貌したと述べている。


例えば、AV女優・早乙女らぶ。
★早乙女らぶのLOVEろぐ★
彼女は中学時代は強豪ハンドボール部に所属、
高校時代の合唱部では全国大会2位。
就職難の時代に大手メガバンクに就職したが、
自分らしく生きる道としてAV女優に転職。
半年で100本以上に出演する売れっ子になった。


「AV女優にはなりたくてなりました。
生きていく上で、自分が得意で楽しいことを仕事にしたかったんです。
AV女優はやりがいがあるし、作品として残るし、才能が認められる、
やりたいことが全部詰まっている」


今、ハダカになってセックスを売ることは、
「自分らしく生きるひとつの道」
になったのである。




一方で、「借金」という、ハダカの世界に落ちてくる王道な理由も根強くあるが、
80年代、90年代だったら数百万円または一千数百万円という金額で墜ちたものが、
現在は百万円以下、数十万円という金額で、女たちはハダカになる。

実は、若い世代に相手にされないAV業界はずっと不況で、
ハダカとセックスの価値は年々下落を続けており、
たった数十万円の負債を、
体を売ったからと言って埋められるかは微妙。

経済が縮小しているのは確実で、
2000年以前までは社会の底辺に近かったはずのAVや風俗業界が、
どんどんしぼんでいく社会の中で急激に浮上、
普通の職業選択のひとつとして、社会に組み込まれてしまったということだ。


本書に登場する17人は、
OL4名、
人妻3名、
現役風俗嬢1名、
失業中9名、
彼氏または夫持ち14名(うち婚約中3名)、
風俗経験者10名、
リストカット3名、
初脱ぎ2名、
レイプされた経験のある者4名。


目次をご紹介すると、



旦那に内緒で彼氏と同棲する女
借金に苦しむ茨城の専業主婦
旦那の風俗通いが許せない新婚妻
婚期を逃した三十路OLとヌードモデル初体験の女
元アイドルの人妻
16歳からずっと家出中の女
東大出身の女教師
保育士になりたいSMクラブの女
彼氏の不能に苦しむバツイチの女
昼と夜の顔を持つ女と月50万で社長と愛人契約していた女
来月に結婚を控えたピンサロ嬢
歌舞伎町のど真ん中に住む女と自意識過剰な麻布のキャバクラ嬢
新卒入社ですぐ会社を辞めた女
大震災直後にヌード志願してきた女



全員の共通した特徴は、
失業などで余っている時間があって、
これといった目的のない生活をしていること。
部屋にブランド物があふれていて、遊び代欲しさに体を提供するというような女性は一人もなく、
質素な切り詰めた生活をしていた。

人生の目標もなく、
流されるままに不特定多数の男性と関係を重ねた末に風俗にたどり着いた女性が多い中、
エリートコースを歩んでいる異色の女性が登場する。



彼女は、中学まではクラス一番のガリ勉。
都内の私立大学を卒業後、大手メガバンクの総合職として入社。
多忙を極めたが、男尊女卑があって女子は出世できない銀行でストレスをため、
社内不倫に苦しんでいた時、
ふと手に取った求人誌の「性感ヘルス」に惹かれて、ヘルス嬢になる。

ハダカになって男に性奉仕してその対価を得るという単純なシステムは、
がんばれば指名されてすぐにお金という結果が出るので、
やりがいがあり、
年功序列の銀行では得ることのできない生きるためのモチベーションが与えられ、
一時病んだ精神的な病気も治ってきた。
昼は「真面目なエリートOL」、夜は「風俗嬢をしているアウトローな私」という二つの顔をもつようになり、
同期や先輩の誰よりも充実した人生を送っているという満足感、
そして何よりも、「女」として認められているというのが自信になった。

ちょうど「東電OL殺人事件」の東電OLのようである。


佐野眞一さんこん身のルポはこちら。

東電OL殺人事件 (新潮文庫)

東電OL殺人事件 (新潮文庫)

桐野夏生さんの独特の解釈に基づく小説はこちら。
グロテスク〈上〉 (文春文庫)

グロテスク〈上〉 (文春文庫)

グロテスク〈下〉 (文春文庫)

グロテスク〈下〉 (文春文庫)


彼女は、
「東電OLの気持ちは普通にわかる。
会社でためこんだストレスが風俗勤めをすることによって解消されていきました」
と語っている。

プロポーズされたことをきっかけに銀行も風俗もいったんやめたが、
旦那に生活力がなく、即離婚、
デリヘル嬢になる。

性格が真面目な彼女。
風俗も銀行と同じように、人の三倍がんばらないとついていけないと思って、
デリヘルの仕事をがむしゃらにやる。

デリヘルの客としてやってきた別の彼氏にプロポーズされ、OK。
真剣につきあう人がいると、風俗はやりづらいので、デリヘルをやめ、

今は、夕飯を作って彼氏を待つ生活。
昼間何もすることがなく、ヒマなので、ヌード撮影に応募してしまったという。


17人の中で、一番、幸せに近いところにいるのが、彼女かな。

彼氏にも愛されているみたいだし。

あとの人たちは、
確かに生活苦とか、お金が死ぬほどほしいという状況はあるにしても、
ヌード撮影以外の道を、選ぼうと思えば選べるのに、
自ら進んで不幸のスパイラルにはまりこんでいるように見えて、
読んでいて、気が滅入った。

先日読んだ「裸心」に出てきたAV女優たちは、
売れっ子ばっかりだったので、
対価もそれなりに受け取っていたし、
人生に対する姿勢がポジティブで、
悲壮感はあまりなかったのと対照的である。

裸心 なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか?

裸心 なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか?


売春の対価が、
実は昔から驚くほど安かったのは事実で、
そういう意味では、4万円でヌードになる彼女たちが特に悲惨なわけではないかもしれないが、
ケータイからメール一本で仕事が決まってしまう手軽さが、
ハダカの世界への入り口を広げてしまったために、
体を売る女性が増え、
AV業界の不況と相まって、
単価を下げてしまったのかもしれない。


読んでいて、
彼女たちの語る物語に、
どこか現実感がなく、
何が欠けているんだろうと読み返してみて、
彼女たちには友達がいないということに気がついた。

みんな、彼氏とか旦那はいるんだけど、
女友達っていうのが、見事にいない。

子どものころから、
いじめられたり、
いわゆる不良少女で周囲から浮いていたりした人が多いからか、
何かあった時に話を聞いてくれる女友達を作るのに見事に失敗している。


子どもの時に友達を作れないと、
友達がいない状態が普通になってしまって、
大人になってからは友達を作ろうという発想すらわかないのだろう。


男にだまされてひどい目にあったりした時に、
「ダメだよ、あんた、それ、だまされてるよ」
って言ってくれる女友達がいないと、
そんなものかと思って、
どんなにひどい目にあっていても、
それに順応してしまうのが、女のサガなんだろうと思う。


たまたまつき合った男がひどいヤツで、
心も体も傷つくっていうのは誰にでも起こりうる悲劇なんだけど、
それが連続すると、たぶん、もう、一生、恋愛できない体質になる。


特に、レイプされた経験のある女性が、
自分は汚れた女になってしまったと思うと、
もうどうでもいいやって気になって、
恋愛する資格ないとか、
男なんてそんなもんかよ、みたいに思ってしまって、
愛情のないセックスしか知らないみたいになっていくのが、
すごく悲しい。

たぶん、そういう女性は心にバリアをはってしまうから、
男を寄せ付けないっていうか、
たとえセックスしても心は開かないみたいになってしまって、
ホントは気にかけてくれる男性もいたかもしれないのに、
どんどん幸せから遠ざかっていくんだろうね。

彼女たちほどひどくはなくても、
つらい恋愛を経験したために、
一種男性不信になってしまって、
その後の人生でかなり長期にわたって恋愛不能になってしまう女性は多い。

本気で恋愛していれば、
絶対に体を売ったりしないし、
さみしさをまぎらわせるために、
愛のないセックスを繰り返すこともないと思うから、
そういう傷ついた女性には、
愛してくれる男性が現れることを心から願う。

「本当に気持ちのいいセックス」シリーズと題して、
セックスっていいよねっていう話をずっと書いているのも、
恋愛から下りちゃった女性たちに、
やっぱり恋愛っていいよねって、
初めて人を好きになったころの気持ちを思いだしてほしいから。

好きでもない人とセックスする必要は全然ないし、
もし本当に愛してくれそうな人にめぐりあったら、
素直にセックスで感じるっていう普通のことが、
どうして、こんなに難しいんだろうね。

セックスって、
ないならないで、
「自分はこのまま愛を知らずにこの先、何年も生きていくのだろうか」
と悩むし、
あるならあるで、
「どうして自分はエクスタシーを感じることができないのだろうか。
愛情が足りないのだろうか」
と悩まなければならないから、
ホント、めんどう。



読んでいてすごく疲れる本だったんだけど、
ひとつの理由は、著者の中村淳彦さんが、
素人ヌード撮影でセックスする女たちに、
心底絶望してるからなのね。

メールでアポとって、
会ったばかりの男の前でさっさと服脱いで、
一線を越えて体を売る世界に堕ちてくる様をまざまざと見せつけられたら、
どんどん心が冷えていくのは当然だと思うけど、


でも、中村さんは「ストリートシュガー」側の人間であり、
犯されている女からしたら、
彼女を犯しているカメラマンと、
その光景をカメラにおさめている中村さんの二人に犯されたも同然なわけで、

中村さんのおかげで、
こういう悲しい現実を知ることができたわけだけど、
彼女たちの人生初の売春を目撃してる人がいたという事実が、
余計に悲しい。

まだ、相手の男と二人っきりの売春のほうが、
終わってから忘れるのが簡単なような気がする・・・


どうして、こんな愛のかけらもないセックスが、
商売として成り立つんだろう。


セックスって、
女として生まれてよかったと思えるすばらしいものであるはずなのに、
こんな風にただの道具として使われる女性が後を絶たないなんて、
悲しすぎる。



女が生きるって、つらいよね・・・



なお、中村さんによれば、
震災後、東北の女の子たちがどんどん東京で風俗嬢になっているという。


どうして、不幸な女の子ばっかり増えていっちゃうんだろう・・・?



Victoriaでした。

・・・
本当に気持ちのいいセックスはこちらです。
本当に気持ちのいいセックス (9) 総集編 - Victoriaの日記
本当に気持ちのいいセックス パート2 (1)言葉責めは効果的? - Victoriaの日記
本当に気持ちのいいセックス パート2 (2)「セックス下手」の意味 - Victoriaの日記
本当に気持ちのいいセックス パート2 (3)ケンカは最高の前戯? - Victoriaの日記