バイリンガル子育ての難しさ  アイデンティティ・クライシス

こんにちは。Victoriaです。

さて、職業柄、
「英語が苦手なんですけど、どうしたらいいでしょう?」
という相談は常に受けているんだけど、





時々、
「英語の才能をつぶさないように伸ばすにはどうしたらいいでしょう?」
という相談を受けることがあって、






たいていは、
親の仕事の関係で海外で暮らしていた子どもが、
帰国して数年たつと、
せっかく身につけた英語力が落ちてきたので、
あわてて親が塾を探して連れてきたっていうパターンで、





小学生の間に英検2級まで取ってしまって、
さあ、次は準1級だってなった時、
その難しさに親子共々打ちのめされ、
どうすればいいのか途方に暮れるというケースが多い。






たしかにね・・・





英検準1級となると、
ビジネスや法律、政治・経済の分野でしか使わない、
ある意味、日常生活からはかけ離れた特殊な単語がずらずら出るので、
小学生にはムリだと思う。







そういうお子さんの場合は、
今すぐ英検準1級とこだわるのではなく、
じっくりと育てていきましょうということで、
物語を読んだり、
日記を書いたりして、
日常的なレベルの英語から、
だんだん難しい内容へと移るようにしていくわけだけど、





時々、
単なる言語の問題じゃなく、
もっと根が深い障害にぶちあたることがあって、







日常的に英語をしゃべっていた子どもが、
まったく英語から遮断された環境に突然放り込まれると、
アイデンティティ・クライシスを起こすことがある。






日本の英語教育界ってすごく極端なところがあって、
幼児から小学生までは、
とにかく会話中心で、
外人の先生と楽しく触れあいながら、
ムリせず英語をマスターしましょうっていう方針が建前だから、
その気になれば、
いくらでもネイティブの環境に身を置くことができる。







だから、
帰国子女のお子さんが日本に帰ってきて、
このまま英語をさびつかせるのはもったいないと思えば、
それなりにニーズにこたえる教室はいくらでもある。






ところが、
中学生になったとたん、
すべてが受験英語中心になって、
楽しい英語はどっか飛んでっちゃう。





東京に住んでいれば、
私立中もたくさんの中から選べるし、
外人の先生を個人的にさがすことも可能なので、
まだ何とかなると思うんだけど、
地方に住んでいるとほぼ絶望的。






外国人の人はいっぱい住んでいるんだけど、
英語ネイティブの人ってホントにいない。






なので、
下手すると、
週に1回やってくるALTの先生の授業以外、
生の英語を聞く機会はゼロだったりして、
英語能力はガタ落ち。






それを恐れて、
ネイティブの先生との個人レッスンを週に何回か続け、
必死に英語力をキープさせようとしたお子さんがいたんだけど、






その子の場合、
中学・高校と地元の公立に進学したので、
発音が本格的っていうだけでやたら目立ち、
逆に先生に目をつけられてしまって、
細かいスペルのミスなんかがあると、
ここぞとばかりに指摘され、
ずいぶん英語の授業に苦しめられたんだけど、






問題はそういうことじゃなくて、
英語で成長する環境を奪われてしまったため、
自我の目覚めと同時に、
深刻なアイデンティティ・クライシスに苦しむようになった。






アイデンティティっていうのは、
自分一人の力で獲得するものではなく、
家族や、
先生、
友達など、
他者との関わりのなかで、
形作っていくものだと思うんだけど






生まれた時から、
完全バイリンガルな環境で育っていたので、
その子は、
いわば、






英語の自分と、
日本語の自分の、
二人のアイデンティティが内面に存在していた。






それが、
中学入学と同時に、
英語の自分を育てるきっかけを失い、
パニックになってしまって、






もしも、
帰国子女クラスのある私立に行っていれば、
同じような環境の他のお子さんと英語でコミュニケーションでき、
切磋琢磨して人間的にも成長することができたと思うんだけど、








将来は、
英語力を生かして、
日本で活躍してほしい






という親の希望で、
純ジャパの環境に身を置いてしまったために、
大変なことに・・・






英語の自分は小学生で成長をとまったまま、
一方、日本語の自分は、
学校では英語ができるというだけで浮くし、
それがイヤで人前で英語をしゃべらないようにしているうち、
すごく性格がいじけてしまって、
ものすごくネガティブな人間になってしまった。







結局、
紆余曲折の後、
いったん入学した日本の大学を退学し、
アメリカの大学に入り直すことで、
ようやく居場所をみつけたわけだけど、







その結論に達するまでに、
かれこれ7〜8年の月日を要しているわけで、







もっと早く手を打つべきであったと、
本人も周りも激しく後悔・・・






バイリンガルでも、
どちらか一方の言語が後から獲得した言語の場合は、
うまく適応してるみたいだけど、






この子のように、
完全バイリンガルで育った場合、
親はよっぽど気をつけて、
両方の言語で育つ環境を整えてあげないと、
失うものは語学力だけではなく、
もっと大切な「本当の自分」ということもある。






これからの日本はグローバリゼーションが大事だってみんな言うけれど、
頭の中でグローバリゼーションが現在進行形で起こってる子どもにとって、
日本社会は生きづらい環境だとつくづく思う。





努力して後から英語を身につけた大人には、
決して理解できない苦しみが、
一部のバイリンガルの子どもたちにはあるのだなあと、
日に日に元気をなくしていく彼らを見ていると実感。





ホント、
子育てって、
難しい・・・






Victoriaでした。