NHKスペシャル「生活保護3兆円の衝撃」   混乱は厚生労働省の一課長による通知で始まった

こんにちは。Victoriaです。

NHKスペシャル 生活保護3兆円の衝撃

NHKスペシャル 生活保護3兆円の衝撃

本書は、

全国でもダントツに生活保護世帯が多い大阪を舞台に、
NHK大阪局が2009年から繰り返し放送してきた「生活保護」関連の番組の集大成として、
2011年9月に放送された「NHKスペシャル 生活保護3兆円の衝撃」の書籍化。





河本準一の母の生活保護不正受給事件があってから、
ホントはもらう必要ないのにもらってうまい汁すってるヤツがいるんじゃねーか?
みたいな空気が広まっていて、






そういう面もあるかもしれないけれども、







いろんな理由で本当に困っている人にとっては、
命綱なわけだから、
これで生活保護いらねーよ・・・みたいになったら大変なことになるよね、
って思っていて、







混乱の原因は何なのか、
知りたいと思って読んだところ、






冒頭から驚愕の事実が・・・







現在の生活保護をめぐる混乱のもととなったのは、
厚生労働省の一課長による通知であった。








どういうことかというと、
2009年まで、
生活保護の受給資格の審査は厳しく、
基本的に職を失ったというだけの理由ではもらえない仕組みだったのだが、










リーマンショックから半年後の2009年3月18日、
厚生労働省から一通の通知が出され、
生活保護受給制度の運用ががらっと変わった。









この通知は、
「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」
というタイトルで、








雇用失業情勢が厳しい中、
政府は、職や住まいを失った方々の住居や生計の維持等のための支援に全力で取り組んでいるけれども、
それでもなお、生活に困窮する方は生活保護の申請に至ると考えられるので、
関係機関は迅速な対応をされたい、









という内容で、
具体的にどのような支援をしていくべきかということが書かれている。









その中の、
「保護の申請から保護の適用までの対応」という項目で、









「・・・単に稼働能力があることをもって保護の要件を欠くものではない・・・」







という箇所があり、
この言葉を根拠として、
自治体の現場では、







「たとえ生活が苦しくなったとしても、稼働世代の人たちについては生活保護に受け入れない」







というそれまでの方針を180度転換し、







「申請があったら、稼働世代でも基本的には受け入れる」







ことになったという。








本書では、
受給資格のある人が一気に増えたことで、
ボロもうけをたくらむ貧困ビジネスの実態や、







生活保護最低賃金を比べると、
生活保護受給額のほうが上回るという逆転現象が起きており、
生活保護制度そのものが仕事をさがす意欲を失わせる制度設計となっていること、







生活保護を受けるためには、
家や車など資産を処分しなければならず、
たとえ職がみつかったとしても、
自立への道のりは遠いことなど、








生活保護制度が、
自立支援としてはまったく機能していない事実が、
次々と明かされる。







河本準一は、
今回の騒動でほとんど職を失ったに等しいらしいけど、







たしかにお母さんを扶養していなかったのは悪いかもしれないけど、







いったん生活保護を受けてしまうと、
保護を切るタイミングがほとんど自己申告に頼っているという、
制度設計のせいもあると思う。









いつまた不安定な状態になるかわからなかったから、
生活保護の申請を取り下げるタイミングを逸した・・・みたいに河本準一は言っていたけど、
そういうものだと思う、
特に、人気商売だから、いつ干されるかっていう恐怖もあったろうし、
実際、
今、それが現実のものとなってしまったわけで・・・








本書によると、
職を失った人で、
失業保険の対象外になる人たちを生活保護に受け入れるということを急きょ決めたのは、
年越し派遣村」の存在が大きいという。







厚生省の目の前の日比谷公園で、
失業者が凍死でもしたら国民から矢のような批判を浴び、
政権も危ういということで、








とりあえず今の時点で使えそうなものは、
60年以上前につくられた生活保護制度しかなく、
どういうふうに運用すれば最も有効に人々を救えるのか、
どこらへんまでなら政府の財政でまかなえるのか、
十分な議論がされないまま、









「一官僚による通知」








という形で、
きわめて場当たり的に対応してしまった結果、









2011年11月公表の数で、
生活保護の受給者は205万人、
この3年間で40万人以上増え、
終戦直後を超える過去最多を記録。







生活保護に支払われるのは、
一年で3兆円。
これは国の税収40兆円の実に12分の1。







それでも、
本当の貧困層で受給しているのは3分の1に満たないという。







明らかにこれは、
制度設計のミスで、









議会の審議を経て、
法改正をしたわけでもなく、
たった一枚の通知で現場が大混乱しているなんて、
信じがたいというか、
なぜ、
そんなことができるのか、
唖然としてしまうんだけど、








自治体の窓口や、
ケースワーカーの人たちは、
日々、増え続ける申請の数に、
人手が足りず悲鳴をあげている。









自立を支援しようと、
受給者の家を一軒一軒訪ね歩いているケースワーカーに対して、
最初はきちんと応対していた受給者たちが、
だんだん、インターホンにすら応じようとしなくなると、









ドアを開けて顔をみせてくれるうちはいい、









受給者が引きこもってしまって、
外の世界とのコンタクトを取らなくなってしまい、
就業意欲はおろか、
生活リズムまで狂ってしまうと、
社会復帰がますます難しくなるのだが・・・
ケースワーカーは肩を落として言う。









お役人が勝手に決めたことで、
善意の現場が大混乱する







っていうのはよくあることだけど、
これほど影響が大きいとは・・・








現在年間3兆円が生活保護に支払われているわけだけど、
これで低所得者層の3分の1なわけだから、
すべての人に支払うとなると、
その3倍、年間10兆円が必要。








年間10兆円を捻出するためには、
消費税3%増が必至。









Victoriaでした。